トップ>小説>転生王子はダラけたい
28 / 134
第4章〜転生王子は国外へ

荷物を詰めて

しおりを挟む
 「フィル様、荷物はこれだけなんですか?」
 カイルは驚いたように俺のまとめた荷物を見る。そこにはスーツケースくらいの大きさの鞄がひとつ置いてあった。
 12歳になるカイルは、ガリガリだった2年前と違って少し肉付き良くなってきた。俺も背が伸びたが、それよりも背が伸びてるのでどうやっても距離が縮まらない。
 「アルフォンス兄さんの話によると、学校は制服だし、寮は家具付きで、食堂ありなんだって。必要な物は街におりれば大抵そろうって話だから。」
 肩をすくめケロリと言った俺に、カイルは少し顔を曇らせた。

 「あの……ステア王立学校中等部で本当に良かったんでしょうか?」
 「あー……アルフォンス兄さまとレイラ姉さまはまだいろいろ邪魔してくるけどねぇ。」
 口元を引きつらせて乾いた笑いをする。
 今日なんかアルフォンスが、ステア王国まで引率すると言いだした。にっこり笑って却下したけど。
 明らかに王族みたいな人と一緒に行動できるわけないだろう。

 「もともと知らない土地でのんびり学校生活するつもりだったから、アルフォンス兄さまたちのことは気にしなくていいよ。」
 俺は苦笑するが、カイルはしょげた様子で首を振る。
 「いえ、この大陸だけの話じゃなくて、フィル様なら王族だけが通う高等学院でも良かったんじゃ……。俺に合わせなくても。」
 実は今回、カイルもステア王立学校中等部に入ることになっていた。

 出会った時のカイルは、読み書きは出来たが学問は学んでいなかった。
 カイルの将来を考えたら知識はあって損はない。そんなわけで、簡単な初級は俺が教えていた。おかげで初級は完璧である。
 だが中級や上級を習うには、やはりちゃんとした先生をつけたほうがいいだろうとも思っていた。
 
 そんな時、父さんに教えてもらったのがステア王立学校だ。
 ステア王立学校は身分や出生は問わない。そこで、獣人族であるカイルも入学できるか聞いてみたのだ。
 学校創設以来獣人が学校に入学したことはないらしいが、合格すれば当然入学できると言うことだった。

 カイルは自分のために、俺が進路を変えてしまったのではないかと気に病んでいるのだろう。
 「やだよ。王族の高等学院なんか。」
 顔をしかめてひらひらと手を振る。
 独学とは言え上級の学問を終えている俺にとって、レベルの高い学校は他にもある。だが俺が学びたいのは、将来的に役に立つような商学や鉱石の学問や召喚獣のことなど。決して帝王学じゃないのだ。
 「カイルだけの問題じゃなくて、僕がいい学校だと思って選んだんだから。」
 俺はにっこり笑って、努めて明るく言った。
 「それに中等部から一般科目以外の特殊科目増えるらしいし。高等部入学出来ても、そのあたりで留年するかもしれないでしょ。」
 冗談ぽく言うと、ようやくカイルも笑顔になった。
 「あと、目立つのお嫌いですもんね。」
 勿体ないというように、カイルは笑ってため息をつく。
 「そう。中等部はまだ10歳以下いるみたいだけど、高等部はさすがに目立つでしょ。」
 俺は手を組んで大きく頷いた。

 「それより、カイルは荷物どんくらいなの?」
 俺は話を戻すようにカイルを見上げた。
 「俺ですか?俺の荷物もひとつですけど……。」
 「なんだ、同じじゃない。」
 拍子抜けして目をキョトンとさせた。
 俺の荷物にあんなに驚くから俺が特殊なのかと思った。
 だが、カイルは「いやいや」と首を振る。
 「俺はもともと私物が少ないですから。でも貴族や王族の旅って、最低でも1人で馬車ひとつ分の荷物って言うのが普通でしょう?」
 戸惑ったように首を傾げるカイルに、俺も一緒になって首を傾げる。
 「そうなの?でも平民として入学するからなぁ。」

 学校側には当然王族と知られているが、他の学生には平民で通す予定だ。実際ステア王立学校では、そう言う王族や貴族も多いのだと言う。平民として友を作り共に学んだ時期が、いずれ上になった時役に立つと。
 まぁ、俺はただ単に庶民でいた方が、気持ち的に楽だからなんだけどね。

 平民として入るからには、持っていく荷物もそうでなくてはおかしい。だから鞄には町で調達出来る質は良いが安いものが収められていた。
 シンプルなシャツとズボン。上着に下着、靴下、それと文房具類。鉱石のついた宝石も少し入れた。
 「これくらいで充分じゃない?足りないなら向こうで買えば良いし。」
 
 【充分ではない。】
 コクヨウはそう言うと、俺の鞄の上に飛び乗って、イラついたように二本のしっぽを揺らした。
 【我は足らぬと思う。鞄を増やした方が良いと思う。カイルもそう思っておるだろう。】
 「え!いや、俺は別に……。」
 カイルが慌てて否定するが、コクヨウにその声は届いていない。
 【ほら、カイルも増やせと申しておる。増やしたらプリンを入れる隙間が出来るではないか。】

 俺は疲れたようにため息を吐く。
 「だから、プリンはナマモノ。移動向きじゃないの。干し芋で我慢しなよ。」
 干し芋はグレスハート王国の新しい名産のひとつだ。日持ちしやすいので、輸出や旅人のお土産として好評である。

 テーブルにあった干し芋をハイと目の前に出すと、コクヨウは不満げな顔をしながらかぶり付く。
 それをあっという間に食べると、テシテシと前足で鞄を叩いた。
 【やはりプリンでなくてはならん。腐るのが怖いか?ならば、鞄にザクロを入れれば良かろう。】
 すっかり食べといてそう言うか。

 ザクロは氷亀こおりがめの俺の召喚獣だ。料理長の召喚獣に氷亀のガアちゃんがいるのだが、ザクロはその弟である。兄と一緒で時代劇の岡っ引き口調なのだが、その理由はやっぱり謎だ。
 
 「ザクロ入れたら、鞄のその他のものも冷えちゃうじゃないか。」
 俺は呆れたように言う。
 確かにザクロ入れたら何日かは大丈夫だろうが、その為に持っていくのも大変だ。
 俺は考えこんで、ハッと閃いた。
 「あ、そんなのよりいい考えがあるよ。」
 俺はうんうんと頷く。

 「テンガ。」
 俺が名前を呼ぶと、歪んだ空間から小さなワラビーが現れた。
 この小型犬くらいの大きさのワラビーは、この世界で袋鼠フクロネズミと言われている。デュアラント大陸の固有種らしいのだが、絶滅危惧種かと言うくらい数が少ない。
 テンガは怪我していた所を保護して、たまたま召喚獣にすることになったのだ。
 【ちわーっす!】
 本人はめっちゃ軽いけど。

 「今まで幼かったからできなかったけど、テンガが特殊能力使えるようになりました!」
 俺がパチパチと拍手とともに宣言すると、2人は「おお〜」と感嘆の声をあげた。
 その中でテンガは照れたように頭をかいて【ども!ども!】と頭を下げる
 
 袋鼠の通常能力は袋の中に物を貯めることなのだが、特殊能力は袋の中の空間移動だ。
 欲しい物を考えながら袋を探ると、別の場所から持って来ることが出来る。

 とても便利な能力なのだが、それも万能ではない。
 テンガが見たことのある物でなくては持って来ることができないし、袋の入口が小さいので当然小さい物しか出し入れ出来ない。
 
 【コクヨウ兄貴、プリン欲しいっすか?】
 ゴソゴソ袋を探るテンガは、よいしょよいしょと袋からプリンを取り出した。
 やっぱりプリンの器でギリギリの大きさか。
 
 【 王宮の冷蔵庫から取ってきたっす。】
 得意満面のテンガをよく出来たとばかりに撫でてやる。
 「これでプリン問題は解決だね。」
 【テンガ、プリンもう一個出せ。】
 コクヨウは出されたプリンにがっつきながら、テンガに指示する。

 おい、人の話を聞け。

 「まったく、さっきまで鞄に氷亀入れるとか言ってたくせに。」
 俺が口を尖らすとカイルは苦笑した。
 すると、袋を探っていたテンガが突然落胆の声をあげる。
 【あー!間違っちゃったっす。】
 「ん?何が」
 見ると、袋からぴょっこり頭を出す氷亀がいた。

 【何でぃ突然!ここはどこでぃ!】
 ガアちゃんだ……。
 って、ええええっ!生き物も持って来れるのっ?驚愕なんだけどっ!
 【何でぃここはっ!】
 ガァちゃんは突然のことに驚きながらも、興奮して頭をグルングルン振り回している。袋が小さいので頭だけしか出られないようだ。
 
 【プリンと言うたではないか。】
 口元をプリンだらけにしたコクヨウは、テンガに不満を漏らす。
 【フィル様が氷亀って言うから、間違えちゃったっす。】
 テンガは恨めしげに俺を見てきた。
 いや、そんなこと言われても困る。
 

 「とりあえず……元の所に返してきなさい。」
 俺はガックリと脱力しながら、ため息を吐いた。


※感想・お気に入り登録ありがとうございます。
ご指摘が多かったので、主人公の年齢を修正しました。それを踏まえ、キャラ年齢を全体的に修正しました。それに加え章を増やして分けました。途中で読んで混乱させた方すみません。

 これからもよろしくお願いします。
しおりを挟む