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Audiokillar

内容
芸術の狂気・人類愛・権力と陰謀が渦巻き、愛が儚く散る。ロックバンドと、世界最強の軍が太平洋で火花を散らす、壮大ロックオペラ。金曜日は本編ストーリー。号外は関連情報を不定期にお届けします。
発行者名ウエダ
発行部数71部
発行周期週1ペース
カテゴリ小説
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◆◇◆Audiokillar◆◇◆

No.35-3/19



第二部 カストラート
    〜角魔 大鷹編〜


 第九章 神の声


 俺は濡れた体も拭かずに等身大の鏡の前に立った。
 まるで宇宙人のように無機質な、目に痛いほど白すぎる身体には、
体毛の一本もない。

 男でもなく、女でもない。

 ただ視覚的にはこの身体を誰かに見せようものなら、誰もが女だと
判断する。そして一部の性の奴隷たちは、この身体に淫らな妄想をす
るのだろう。

 吐き気がする。
 こんなところに鏡さえなければ……。

 訳の分からぬ怒りがまたみぞおちから突き上げ、拳は鏡の中央を殴
った。ひび割れた鏡が俺の身体をバラバラにした。中指から好きなだ
け血が流れ、止まる頃にはこの怒りも収まるだろうか……。

 俺の居場所はどこにあるんだろう。
 そんなものがこの世界にある訳がない。あるとすれば俺の思い描い
た音の世界。真っ白な究極の音の中……。
 そして刀の光。俺を闇から救ってくれた武士道。
 ロックという手段の反抗。


 そして部屋のドアが開いた。
「ノックぐらいしろ」
「まさか裸でいるとは思わなかったよ。俺だからよかったものを」

 スコットが壁際の黒いガウンを投げ、俺は身体にかけると腰ひもを
縛った。
 どちらからともなくソファに向かい合って座った。

「一つだけ聞いていいか」
「なんだ」

「キアヌにカストラートだという事をしゃべったか」
 ため息が出た。何にウンザリしたのかも分からないため息だった。
「誰にも話してねえよ……」
 俺を女じゃないかと疑ったような目で見るときのアイツはウザい。
 異性に対して一番目が鋭くなる、そういう年齢だということは分か
っている。それでも、ほんの一瞬でもそういう目で見られることはこ
の上なく腹立たしい。
 しかしキアヌ、あいつは男気があり情に厚く、純粋で正義感溢れる
ロックバカ。作曲とギターセンス、そして射撃には天才的なものが、
確かにある。
 俺は才能で人の好き嫌いを分ける。あいつは選ばれた人間だ。

「週刊誌ではお前が女ではないかとか、ニューハーフではないかとか
騒ぎ出しているからな。人間ってのは人の秘密の匂いをかぎあさるイ
ヌみたいなもんだ。まあ何かと面倒くさい。気を付けておけよ」
「じゃあアンタも俺の部屋の合い鍵なんか持つな。
あのイヌどもの見え透いた妄想を考えただけで吐き気がする」
 スコットが今度はため息をついた。
 俺のタメ口と突っかかる態度に手を焼いているのは分かっている。
合い鍵を俺の方にポンと投げた。

「大鷹、もう一つ聞いていいか」
「なんだ」

「後悔はしてないか」
 そんな言葉、初めてスコットから聞いた。
「一度しか答えないから、二度と聞くなよ。
 俺にとってロックは命だ。
 ハイトーンに苦しみあがいてる奴らの汚い声を聞いていると殺した
くなるほど腹が立つ。もしカストラートになっていなかったら俺もあ
あなったのかもしれないと思ったらな。
 そのことだけは、あんたが一生心配する必要はねえよ。
 感謝する事はあっても、後悔する事はない」

 スコットが前屈みになって俺の目を覗き込んだ。
 俺も同じように胸の奥を開く。
「もっとハッキリ聞きたいか? 満足してるよ。俺のシャウトは誰に
も負けない。そして楽しみだ。これからこの声で腐った兵器を破壊で
きるのかと思うとな」
「お前は魔物だ。俺の目に狂いはなかった。いい根性だぜ。
 お前は誰よりも男だ」
 いい根性……そうだ、俺は男だ。
「そしてもうひとつの魔物、オーディオキラーの完成を祈って乾杯だ」



       *             *



 10年前
 風に吹かれるアウガルテン宮殿。
 オーストリア・ウィーン少年合唱団の寮だ。
 俺はただ自分の力が試したくて、父から逃げたくて、この戦場にヤ
マトから乗り込んだ。武士の家系に生まれたと言われる父、角魔幸雄
は角魔道場の三代目師範。だが、男らしさなんてものは剣を握ったと
きだけで、普段は女々しいほどの純愛主義者だった。

 涼子が死んだのは俺を生んだから。

 何度聞いただろう。俺はその言葉からただ逃げ出したかった。
 自分の存在が、あってはならぬ魔物にさえ思えたからだ。
 1498年創立されたウィーン少年合唱団は1918年、オースト
リア帝国の崩壊とともにオーストリア皇帝所属の聖歌隊から、元合唱
団メンバーが設立メンバーとなり民間の手にゆだねられた。

 全100名余り、4つのコーラスグループからなる合唱団と全寮制
学校、ギムナジウム(ヨーロッパの中等教育機関)の最初の4年間
(中学校)と音楽だけではなく、勉学においても過不足なく成り立っ
ている。
 アウガルテン宮殿の廊下で同級生らしき五人のグループとかち合っ
た。
 真ん中の一際背の高い金髪は、銀の鎖につながれたキラキラ光るも
のをクルクル回しながら威圧を掛けてきた。青い瞳も金髪も、目に痛
いほどきらびやかだ。
 俺は唯一のヤマト人、同じ年齢の外国人の視線の高さはちっとむか
つく。
 いかにもというワザとらしい見下した笑いは逆にありがたい。
 お前らを俺はどん底に突き落とす。オペラでもバリトンがテノール
に嫉妬するように、アルトがソプラノに嫉妬しやがる。すべてのボー
カリストにとって、高音とは誰もがあこがれる神の声だ。
 今はただ、鞘におさめた刀を抜く瞬間を待つだけ。
 俺の行く手をわざとらしく遮ってニヤニヤ笑う五人組。小学校に入
る前から、空手と剣道をやっている。皮肉な話だが腕力はきれい事抜
きにイジメから身を守る最高の武器だった。
 ヒマさえあればケンカした。味方と勘違いしてなれなれしく寄りつ
く奴らも殴った。
 俺は誰かと組んで誰かをイビるという奴らが一番むかつくからだ。

 こいつら五人の顔にアザを作ることは簡単だ。
 でもこのウィーンではこの拳を封印することも誓った。
 少なくとも、ここに来る奴らはみんな夢に向かって努力することを
知っている。無駄に絡んでくる奴はいても腕力で訴える奴はいないは
ずだ。
「おい、チビのヤマト人、声を出してみなよ」
「オハヨ」
 ムッとした真ん中の金髪が肩を揺すって近付いてきた。
「そんなんじゃねえよ、そうだな、ソブラノ域の、Eの6を何秒持続
できるかで勝負しようじゃないか。もちろん大きな声でな」
 真ん中の金髪アタマはクルクル回していた光るものをガシッと掴ん
で俺に見せつけた。ストップウォッチだ。
「いいぜ、俺は大鷹だ、角魔大鷹」
「ボクはガブリエル、ガブリエル・エーベルストだ。まあここはヤマ
ト人が来る所じゃないってことを、教えてやるよ」
 回りの少年たちが一緒になって笑い出した。
「オメエらしゃべんな」
 俺がキレたのが分かったのか五人組が一瞬固まった。ヤマトでもキ
レるとガキどもはすぐにビビったものだ。声がデカくなり目つきが変
わるらしい。
「表出ろよ、外でやろう」
 ガブリエルも目つきが変わった。
 その目の奥に闘志の炎が揺れている。宮殿を出ると眩い緑の大地が
飛び込んだ。俺の生まれ育った北九州にはこんな色はなかった。だか
ら逆に落ち着かない色だ。
 ガブリエルはニヤニヤ笑いながらストップウォッチを振り上げた。

「いくぜ」
 大きく息を吸って、ストップウォッチのピピッという音と共に声と
声がぶつかった。
 ガブリエルの声は確かにいい響きを持っていた。
 俺は更に太い声で共鳴させると残る四人の目がピンポン球みたいに
なった。ガブリエルも躍起になって声を張り上げた。
 なかなかやりやがる。だが負けられない。
 もう男の意地とプライドの戦いだ。庭園が二つの声で充満した。
 背中を丸めて最後の一息まで声を絞り出す。
 そしてついに俺の声が途絶えた。
 ガブリエルの声も聞こえない。
 同じように背中を丸めたガブリエルが、俺を上目遣いに睨んだ。
 そしてニヤリと笑った顔には険が無くなっていた。
「やるじゃないか、チビ」
「お前もな」
 照れくさそうに笑ったガブリエルが手を差し出した。勝負の後は互
いの健闘を称えるあたりはやっぱり同志だ。
 俺はその手をガッシリと握った。ちょっと汗ばんでいる。
「さっきの言葉は取り消すよ、お前は男だ、角魔大鷹」
「おまえもな」
 以後、彼は俺の未来で最大のライバルとなる。







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「ロックで戦争を破壊する」の精神の元、人類最悪の発明、軍事兵器
というゴミの大掃除をすべく開発されたオーディオキラー。
 ケビン、キアヌ、角魔大鷹らが世界を斬る痛快ロックオペラ、
それがAudiokillarだ。

◆毎週、月・金曜日配信
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