「うっ、痛い!」
一人の男が突然倒れた。
ここはアパートの1DK。男は独身で友達も恋人もいなかった。けれども一匹の捨て猫を拾い。それ以来可愛がっていた。
「ニャー!」
捨て猫のミケは名前も男につけられていて、とても可愛いがられていた。
原因不明の痛みで倒れた男。
このアパートでは住人はみんなその男の名前も知らないほど疎遠だった。
もはやこれまでという。
その時。
文字数 338
最終更新日 2020.12.04
登録日 2020.12.04
私はふたを開けてしまった。
母には決して開けてはいけないと言われていたけれど、どうしても開けたかったのだ。それは銀紙チェックの少しお洒落な箱だった。
文字数 1,139
最終更新日 2020.12.01
登録日 2020.12.01
男は勤続30年なのに、幸運の女神に怒っていた。
何故なら真面目に長い年月働いていても、幸運が巡ってくれないのだ。
文字数 893
最終更新日 2019.08.23
登録日 2019.08.23
真昼の丁度、食事を終えた頃は、眠い。
薄暗い小屋の中で、中年女性のおしゃべりに耳を傾けて、適当に相槌をうっていると、ついウトウトとしてきた。
午後の三時になると、一変して、まるで白昼夢のようなまどろみの中で、動悸が治まらない。
私は占い師の見習い。
今年で14歳になる中学生の女の子。
見習い占い師の失恋の物語。
文字数 4,809
最終更新日 2019.07.18
登録日 2019.07.18
薄暗い森には、かなり痩せこけた老婆がいる。
なんでも、罪人を集って暮らしているらしい。
そのせいで、街には罪がなかった。
(とがびともりのもり)と読みます。
私は罪のない街で生まれた。
罪人を集める老婆がもう長くないと知った。
文字数 1,168
最終更新日 2019.07.15
登録日 2019.07.15
「おいおい。泣いていないで、さ、さ、冷たい番茶を飲めや」
冴木 彦次郎は今年で59になる私の祖父だ。
私は布団部屋で着物を乱して、上半身だけ起き上がり、子供のようにわんわんと泣いていた。
彦次郎の進める番茶を勢いよく手で叩き。
いつまでも、泣いていた。
「もう、生きていたくない!」
番茶は畳の上にまき散って、コロコロと転がり部屋の隅の風呂敷包み当たった。
8月8日で、私は16歳だった。あの風呂敷包みには何があるのだろう?
文字数 3,126
最終更新日 2019.04.24
登録日 2019.04.24
俺はあの涼しい夏の頃、正確には高校二年生の時にラウム国を救った。
俺はさすがに記憶があるわけではないけれど、いつもこう思うんだ。母さんの腹の中でも羊水で体を洗っていたのではと考えたくなるほど、とにかく綺麗好きだった。
そんな俺の朝はいつも忙しい。
朝一でさっさと入浴をして、体を洗うこと5回。髪を洗うこと6回。顔を洗うこと7回。歯を磨くこと6回。
洗顔クリームやシャンプーとリンス。歯磨き粉は一週間もしないうちに空になってゴミ箱入りだった。
階下から母さんの声が聞こえる。
「聡――! 洗ってないで! 早くご飯食べなさい!」
階下へ行って、夏の日差しが映えるキッチンのテーブルで、コーヒーを飲んで新聞を読んでいる父さんの肩を少し揉んでから、朝食のベーコンエッグの乗ったトーストと、蜂蜜入りの紅茶を食し、リビングにある鞄をかっさらうと、急いで外へと出た。
文字数 6,351
最終更新日 2019.04.21
登録日 2019.04.21
「あれ? 財布がない」
全てのポケットを探してみたが、改札を抜ける時まではあったはずの財布がなかった。
地下鉄の中でハッとして周りに視線を送った。乗客はいなかったし、吊革を握って立っているのはおれだけだった。
新しい高校への転校初日だが、先が思いやられてしまう。
このままでは、よく知らない初めての駅の改札口で困るだろうな。駅員さんになんて言おうか?
財布を盗まれた。
そういうのが一番いいけど。
しかし、まったく覚えがないので見つかることはないだろうな。
財布の中には、何故か一円玉が13枚。
転校初日の奇妙な出来事だった。
存在自体から距離を置いてしまった高校生の物語。
文字数 4,416
最終更新日 2019.04.02
登録日 2019.04.02
ここはB区という場所。西暦2058年の日本だ。2042年頃から少子超高齢化が急速に進み、今では65歳以上の人が、8千万の総人口の58パーセントまで達し。日本国内の総人口のうち二人に一人は老人ということになった。国債も信じられないほど膨らんで2300兆円となった。経済力で各国とせめぎ合うことが困難になった時代。
2038年に現首相は日本の発展という希望のため日本の中央へ全国民を収集した。
A区。B区。アルファベットで地名を表すようになってから、日本全土の区画整理でもう20年余りが経つ。アルファベットの地区は一つでも人口が約3千万人以上の巨大な地区だ。現首相は日本の急激な発展が責務となり、B区には日本の国の経済を左右するほど巨大な都市を造り、B区より広大なA区には、B区の周辺部には商店街や中小企業など、農村部には農業や漁などといったB区をサポートするかのような造りにした。
けれども、そのためか貧富の差からくる不満や差別が横行し、2038年に世界で大きな戦争が起きた後に、銃を持つ程の治安の悪い世界となった。
A区やB区とアルフャベットの地区をまとめて云話事町と呼ぶ人もいる。AやBというよりは、云話事町の方が解りやすくていいのだが……地区なのだが、何故町なのかというと。
理由を知っている人はいないだろう。理由はA区やB区を提唱した現首相の出生地が云話事町という場所だったからだ。
文字数 85,373
最終更新日 2019.01.25
登録日 2018.12.17
19世紀のロンドン
自動車というものが流行るこの霧の多い都市で、ぼくは働いていた。
「おいお前。永遠の命欲しくねえか?」
ぼくはいじめられっ子だった。
馬車が行き交うこの町に、友達が一人もいないぼくは、いつもリクたちにいじめられていた。
「いらないよ」
「そんなこと言わないでさ。きっと、面白いぞ。何たって未来永劫死ぬこともねえし、飯も食わなくても生きていけるし、毎日楽しく遊んでいられるんだぜ」
リクは金髪の間に黒髪が少しだけ混じったスコットランド出身の男の子だった。
ぼくは生粋のロンドン生まれ。
金髪の少し太った体格の14歳だった。
永遠の命を得てしまった少年の物語。
文字数 2,272
最終更新日 2019.01.23
登録日 2019.01.23