伝わる文章術

文章に奇手妙手なし、奇をてらえばねらいを外す

2018.04.26 公式 伝わる文章術 第2回
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ビジネス文書を結論から書く時の注意点は「相手を見よ」

結論から書くという手法は、ビジネス文書でも時折見かけます。こちらがお客の立場で、先方から何らかのビジネス上の提案をもらい、その提案についてお断りの文書を送るならば、結論をはじめに告げることでもよいでしょう。

Aさんは先方からの提案に対し、次のようなお断りの文書を書きました。

「先般は、大変有意義なご提案をいただきありがとうございました。
しかし、残念ながら今回、〇〇様のご提案につきましては見送ることといたします。
関係各部署の長とも協議いたしました結果、〇〇様のご提案を実行するには、私どもではまだまだ力不足という判断になりました」

この後に常套句(じょうとうく)の「末筆ながら〇〇様の益々のご活躍を祈念いたします」などが続きますが、冒頭はこんな具合です。

率直な表現で、話が早くて分かりやすい。それはそれでよいことですが、結論を頭に持ってくる文章は、どうしてもぶっきらぼう感が否めません。

それによって相手の気分を害してしまったのはBさんのケースです。Bさんも、Aさんと同じように結論からはじめるお断りの文章をつくりました。ただし、相手がかなり重要度の高い取引先、こちらにとってはお客さまと言ってもいい存在だったのです。そういう相手に紋切り型に近いお断りの文章は逆効果です。なぜなら、相手は自分のほうが立場は上だと思っていますから、冷たく断られることはまずないだろう、仮に断るにしても、確かな理由を詳しく言ってくるものと考えているからです。

そこへ
「残念ながら今回、〇〇様のご提案につきましては見送ることといたします。関係各部署の長とも協議いたしました結果、〇〇様のご提案を実行するには、私どもではまだまだ力不足という判断になりました」
と来たら、「そうかあ、じゃあ仕方ないな」と思ってはくれません。もっと詳しく説明しろとなるでしょう。

こうした場合には、次のような文章が好ましいと言えるでしょう。

「先般は、大変有意義なご提案をいただきありがとうございました。
関係各部署の長とも協議いたしましたところ、〇〇様のご提案は我が社の将来にとって大変重要で必要なものであり、我々自身が率先して取り組むべきことであるという共通認識を持つに至りました。
その一方で、現在の我が社の実力を考えますと、〇〇様のご提案を実行するにはあまりに我々が力不足であることも痛感いたしました。
そのため、残念ながら今回、〇〇様のご提案につきましては、我々にご提案を実行し得る力が付いた段階で、改めてこちらからお願いに赴くということにしたいと思っております。いかがでしょうか。
私どもといたしましては、いまから全社員の意識改革を行い、できるだけ早い段階で、会社を〇〇様のご提案を実行できる体制につくり上げたいと思っております」

すこし長いですが、理由の説明に軸足を置くことで、提案者としても、多少は自分のことを尊重しているなとわかるように思います。

<コラム2>
いますぐ簡単にできる文章の
ブラッシュアップ法―その2
「安易に手を出すと危ない“体言止め”の技術」

ときどき「体言止め」を多用する文章を目にします。体言止めというには、たとえば川端康成の『雪国』の冒頭を例にするとこうなります。

原文「国境の長いトンネルを抜けると雪国だった」を体言止めにすると
「国境の長いトンネルを抜けると、そこは雪国!」。

スキーツアーのキャッチコピーのようですね。体言止めは文に余韻を残す手法と言われますが、この場合は強調効果でしょう。体言止めは文章全体にリズムが出ますし、個性的で印象的になりますから、多用したい気持ちはよくわかります。

私も、しばしば体言止めの誘惑にかられながら文章を書いています。ただし、私の場合は読み直しをする段階で、体言止めの箇所はほぼ普通の文に直します。改めて読むと、ひどく気障(きざ)ですから。

たとえばこんな具合です。

普通の文体
今年の夏は殊の外暑いそうです。みなさまのご健康が案じられます。どうかくれぐれもご自愛ください。

体言止めの文体
仄聞(そくぶん)するに今夏は例年にない猛暑。諸兄の健康が気がかり。乞うご自愛。

昔の電報のようですね。

文章は文の連なりですから、一つひとつの文の個性や印象ばかりを意識していると、文章全体として奇妙なものになりかねません。文章の良し悪しとは、木を見るよりも森を見て判断すべきです。

体言止めは、文章に個性と印象をもたらす効果を持つ文体です。ところが、体言止めを使って、上品かつ流麗な文章を書くことは、普通の文章を書くのに比べかなり高度な技術を要します。技術的に肝心なのは、体言止めは最小限に留めることと、効果的な場所にのみ使うことです。体言止めの多用は、普通免許の人がいきなり世界屈指のF-1マシンを操るようなものです。

体言止めは、実は危ない文章技術なのです。

次回に続く

 

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プロフィール

亀谷敏朗
亀谷敏朗

1984年中堅ビジネス書出版社だった中経出版に入社。本づくりのかたわらセミナー事業、コンサルティング・ビジネスにも携わる。また、在職中は中小企業から一部上場企業までを横断した、企業内の教育担当者の異業種交流会を主催した。
2004年フリーの出版プロデューサーとして独立。主にビジネス書作家のデビューを支援する。
支援の一環として、新人作家の原稿づくりのアドバイスを手掛けたことから、改めて伝わる文章の研究を始める。
「名文は要らない」、「読者と編集の立場から見たわかりやすい文章」に軸足を置いた方向で、新人作家には文章の書き方をアドバイスしている。

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