伝わる文章術

クレームを出すときこそ、文章はできるだけ丁寧に!

2018.05.10 公式 伝わる文章術 第3回
Getty Images

文章とは人柄が出るものだと忘れてはいけない

文章を書くのは苦手という人は、私の周りにもたくさんいます。とりわけ頼みごとやお詫びの文章などでは、苦労しているようです。また、立場が上の人に読んでもらう文章の場合は、文章を書くのが得意という人でも気を使います。その点、クレームを出すというのは、こちらのほうが立場は上。したがって、あまりクレームの文章で悩むという人は少ないのではないかと思います。

しかし、そこに落とし穴もあります。世の中、往々にして調子に乗っているときほど、そこに落とし穴があるものです。クレームを出すとき、ここぞとばかりに居丈高(いたけだか)となって、相手に何の気使いもせず怒って感情のおもむくままの文章を書けば、ついつい書かなくてもよいことまで筆が及んでしまいかねません。

人は怒ったときと笑ったときに本性が露わになるものです。本性が出てしまうと、いわゆるお里が知れるとか、人を見られるというような状態になってしまいます。人を見られるというときの「人」とは「人格」ですね。

勢いよく書いた文章は、どうしても筆が滑りがちとなります。慎重な文章は、書き手の人格を紙背に隠しますが、ちょっと油断すると隠れていた人格が表面に露われます。その露われた人格が優れていればよいのですが、うっかり品のない、器量の狭いところを見せしまっては後悔のもとですし結局は損です。

文章とは元来、書き手の人格や人間性が露われやすい表現手段なのです。自分の立場が上のときこそ、文章表現は慎重にしたほうがよいというのは、私の経験からも言えます。気を使わなくてよい相手に対する文章ほど、気を使ったほうがよいというのはひとつの処世訓と思います。

文章術とは、ひとつのコミュニケーション・スキルと言えます。コミュニケーションで決め手となるのは、言うまでもなく人柄、人格です。立場の優位さに乗じてお里が知れるような文章を書くようでは、文章術以前に解決しなければいけない問題をお持ちではないかと言わざるを得ません。

「丁寧な文章」には書き手の頭を冷やす効果もある

クレームは憂さ晴らしにやるものではありませんし、だれかに文句を言って溜飲(りゅういん)を下げることが目的でもないはずです。こちらの不利益を解消してもらうのが目的であり、クレームはそのための手段のひとつにすぎません。

怒りに目がくらむと、つい目的を忘れ「今日こそは言ってやるぞ!」とクレームに全力を傾けるようでは本末転倒です。これは文章で申し入れるときばかりでなく、電話やメールでクレームを出すときでも同じことが言えます。

文例で見ていきましょう。ある外注先が納期遅れを多発させました。これまでにはなかった頻度です。そのため、こちらの生産計画にもトラブルが生じ、クライアントから苦情が来てしまいました。外注先には納期遅れのたびに、電話やメールでクレームを出していましたが、状況に大きな改善が見られないので文章を送ることにしました。

文例1
<冒頭の定型文や時候の挨拶は省略 以下同様>
この3カ月間で〇〇社さんの納期遅れが続いています。
そのため、当方の生産計画にも著しい支障を来し、クライアントからも苦情をいただいています。
〇〇社さんへ納期厳守を強く申し入れます。つきましては、〇月×日まで具体的な改善プランを提出してください。

まあ、これは普通ですね。
文書というよりはメールで送るレベルと思います。

文例2
この3カ月間に〇〇社さんの納期遅れが何回も起きています。
なにをやっているのですか。
おかげでこちらの生産計画はガタガタで、当社にクライアントから激しい苦情が来ています。
もういい加減にしてください。これ以上納期遅れが起きるようなら、取り引きを止めますよ。本当に納期だけは守ってください!

電話やメールでのクレームをもらうのと、文書でもらうのではもらった側の印象が違います。電話やメールのクレームでも、無視する人はいないはずですが、文書の場合は、さらに重量感があるため、もらったほうは身構えるものです。そこへ感情丸出しの文書が来たら、担当者が怒っている、また困っていることはよく伝わるものの、重量感は皆無です。
文中で「以後も納期遅れが発生したら取り引き停止」とありますが、全体が軽い文章であるために脅しとしては弱くなっています。

ご感想はこちら

「伝わる文章術」 記事一覧

プロフィール

亀谷敏朗
亀谷敏朗

1984年中堅ビジネス書出版社だった中経出版に入社。本づくりのかたわらセミナー事業、コンサルティング・ビジネスにも携わる。また、在職中は中小企業から一部上場企業までを横断した、企業内の教育担当者の異業種交流会を主催した。
2004年フリーの出版プロデューサーとして独立。主にビジネス書作家のデビューを支援する。
支援の一環として、新人作家の原稿づくりのアドバイスを手掛けたことから、改めて伝わる文章の研究を始める。
「名文は要らない」、「読者と編集の立場から見たわかりやすい文章」に軸足を置いた方向で、新人作家には文章の書き方をアドバイスしている。

ピックアップブログ推薦 出版をご希望の方へ

公式連載