伝わる文章術

上手なビジネス文書には「会社の理念」が反映されている

2018.05.24 公式 伝わる文章術 第4回
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個性的なビジネス文書を苦労せずに書きたいときは

文章には、書く人の考えや意思がにじみ出ます。特に書き手の人柄は、文章の巧拙(こうせつ)を超えて読み手に伝わってくるものです。ただし、ビジネス文書というのは事務的な定型文であるため、そこに個性が強く発揮されることはめったにありません。ですからビジネス文書にあまり特徴的なものはなく、どこの会社の、だれが書いても同じような文面になりがちです。

その結果ビジネス文書とは、何かつまらないものという先入観がついて回っています。ビジネス文書は、文書のヘッドライン、あるいは表題の「〇〇〇につきまして」、「〇〇〇の件」を見て、後は具体的な要項を読めば用件は足りてしまうので、せっかくあれこれ悩んでしたためた肝心の文面は、苦労の甲斐なくスルーされがちです。

しかし、個性がないとはいえ、だれが書いても一定のクオリティが保てるというのがビジネス文書のよいところでもあります。もし、それでは個性がない、つまらないと一念発起して文面を工夫しようとすると、にわかに何をどう書くかに悩み、呻吟(しんぎん)しなければなりません。たとえつまらなくても定型のパターンがあるからこそ、何をどう書くかであまり悩まなくて済むのです。文面に個性があって、書く人があまり苦労しないビジネス文書の書き方があればよいのですが、さてそんな方法があるでしょうか。

あります。まず個性という点ですが、あくまでもビジネス文書である以上、個性は書く人の個性よりも会社の個性がより強く表れているべきなのです。会社の個性とは何か。それは、やはり会社の「理念」や「方針」でしょう。ある「感謝の経営」を理念としていた会社の文書は、いかなる文書であっても、必ず「ありがとう」が文面にあふれており、末尾には常に「合掌」とありました。文面の背後に、会社の理念や経営方針がしのばれることで、どこの会社でも似たようなものになりがちなビジネス文書が、ひと味違ったものとなります。

次に苦労なく書くという点ですが、文章作りで呻吟するのは、よいことばかりを書こうとするからです。あれもよい、これもよいというのは、取り立ててよいところがないといっているのと変わりがありません。それならば、わが社の理念、方針に基づいてわが社のよさを語るほうが、読み手の受け取り方も変わってきます。

書く人に迷いがあると文章はネガティブに伝わりやすい

顧客に新製品の案内を送るとき、その案内文を書く人の本音は「ぜひ買ってください!」でしょう。製品のよい点ばかりを連呼するのは、それゆえです。しかし、そうした下心は文章を読む人に何となく伝わってしまいます。これでは共感が得られません。

伝わってほしいのは「よい製品である」ということなのですが、力んで商品のよさをアピールすればするほど、それがかえって仇(あだ)になるのが文章というものです。伝わってほしいことは伝わらず、伝わらなくてよいことばかりが伝わる。コミュニケーションというものは、往々にしてそうですね。

下心が見透かされてしまう理由は、ひとつには書く人に迷いがあって、自信と確信を持って言いたいことが言えていないからです。企業経営では「迷ったときには理念に還れ」といいます。理念や方針は企業の原点ですから、新製品をアピールするときの文章にも、会社の理念や方針が伝われば十分にその根拠になり得るはずです。

たとえばこんな具合です。新製品が、従来品よりも製品寿命が延びたことを顧客に知らせる文書をつくったとします。普通の案内文書ではこうなります。

例文A
<前段部分は省略>
「製品の心臓部に新素材を導入することによって、従来品よりも30%製品寿命を延ばすことができました。この結果、コストパフォーマンスが上がり、メンテナンスの手間も減りました。いますぐお買い替えいただくことによって、お客さまの生産性向上に大きく貢献できるものと存じます。」

基本的にお客さまのメリットを第一に考える姿勢はうかがえますが、おそらくどの会社でもこの姿勢が基本でしょう。したがって、よくある文面にしかなりません。

一方、もし理念に「環境保護」を謳っている会社であるならば、すこしアピールポイントが異なります。下記がその一例です。

例文B
<前段部分は省略>
「製品の心臓部に新素材を導入することによって、従来品に比べ原材料段階から生産段階までの環境負荷が50%減少、製品使用時のエネルギーコストは10%減少、製品寿命を30%延ばすことができました。この結果、新製品はお客さまの生産性向上とともに、わが社の理念でもある「環境保護」にも大きく貢献できるものと確信しております。」

環境負荷の減少を訴えることで、お客様第一だけでなく社会にも貢献する、いわゆる「三方よし」を目指している企業姿勢が文面からわかります。同じように製品のよさをアピールしていますが、理念の背景がある分、後者のほうに若干強い自信が感じられませんか? 文章は書くほうに迷いがなければ、読むほうにすっきり伝わるものです。

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プロフィール

亀谷敏朗
亀谷敏朗

1984年中堅ビジネス書出版社だった中経出版に入社。本づくりのかたわらセミナー事業、コンサルティング・ビジネスにも携わる。また、在職中は中小企業から一部上場企業までを横断した、企業内の教育担当者の異業種交流会を主催した。
2004年フリーの出版プロデューサーとして独立。主にビジネス書作家のデビューを支援する。
支援の一環として、新人作家の原稿づくりのアドバイスを手掛けたことから、改めて伝わる文章の研究を始める。
「名文は要らない」、「読者と編集の立場から見たわかりやすい文章」に軸足を置いた方向で、新人作家には文章の書き方をアドバイスしている。

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