伝わる文章術

刺さる企画書の書き方――「財布は忘れてもメモは忘れるな」

2018.06.14 公式 伝わる文章術 第5回
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メモは5W2Hプラスで

アイデアが頭の中にあるときは、大ヒット間違いなしの珠玉の着想と思っていたのに、文字にしたらつまらないというのは、閃きの核心をつかみ切れていないせいです。いまでは普通にコンビニで売られている、一回で使いきれる量に小分けされたインスタントコーヒーですが、昔は何10杯分がひとビンに入っていました。レギュラーサイズのインスタントコーヒーが当たり前の時代に、もし一回で使い切れる小さいサイズのインスタントコーヒーをつくるというアイデアが閃いたとき、それをメモに書くとどうなるでしょうか。

<アイデアメモ例 1>
小さいサイズのインスタントコーヒーをつくる

これは外形上の特徴ではありますが、アイデアの核心ではありません。アイデアの核心をメモにするなら、こうなります。

<アイデアメモ例 2>
一回で使い切れる量のインスタントコーヒーをつくる

肝心なことはアイデアの核心は小さくすることではなく、一回で使い切れる量にすることにあります。では、アイデアの核心に迫るにはどうすればよいでしょうか。

文章の構成は5W2Hが基本です。

アイデアの点検も同じステップを踏みます。ただし、ビジネスでは成果が求められますから、アイデアがどんな効果をもたらすかも点検の重要な項目となります。したがって5W2H(WHAT、WHY、WHO、WHERE、WHEN、HOW、HOW MUCH)プラス(効果)が点検の基本です。

<例文A 小型化のアイデアでつくった企画>
新商品企画
(WHAT)テーマ 小さいサイズのインスタントコーヒーをつくる
(WHY)ねらい 「レギュラーサイズでは持て余す」という声が、(WHO)単身世帯、高齢者世帯に多い。
そこで(HOW)小型サイズのパッケージを開発し、(WHEN)新商品発売シーズンに(WHERE)既存市場へ投入して(効果)消費者の好みに応じた商品のバリエーションを展開する。
(HOW MUCH)販売価格は〇〇円

小型化というアイデアからでは、導き出す諸条件があいまいです。そのため企画としても弱さが残ります。

(WHO)単身者や高齢者世帯では、(WHY)レギュラーサイズは持て余すという点は明確なので、ここを中心に再度アイデアを点検し、企画を練り直します。「単身者・高齢者が持て余さない」とは、具体的には「一回で飲み切れる量」ですから、企画書の文章は次のように改まります。

<例文B 練り直した企画>
(WHAT)テーマ 一回で使い切れる量のインスタントコーヒーをつくる
(WHY)ねらい 「レギュラーサイズでは持て余す」という声が(WHO)単身世帯、高齢者世帯に多い。(HOW)一回で飲み切れる量の「飲み切りサイズ」のパッケージを開発し、単身者、高齢者の利用頻度の高い(WHERE)中堅スーパーやコンビニで展開する。
(効果)これまで空白だった単身世帯、高齢者世帯のニーズを取り込み、付加価値の低いファミリー向けの特売商品頼みから、高付加価値体制にシフトチェンジを図る。(WHEN)新商品の市場投入は競合他社に先んずること。(HOW MUCH)販売価格は〇〇円

単身世帯、高齢者世帯のレギュラーサイズでは持て余すという問題を解消するというねらいを深堀すれば、単なる小型化というあいまいさが消え、商品コンセプトが決定します。

また単身者、高齢者が利用するのは、郊外の大型量販店ではなく、住まいの近くの中型スーパーやコンビニとなるため、ここが新商品の投入先です。

5W2Hプラスで点検することで、アイデアが具体的でシャープなものとなるのです。

<コラム>
いますぐ簡単にできる文章の
ブラッシュアップ法 その5
『引用のフェアゾーンとOBゾーン』

ドラッカーはこう言った、『孫氏』にはこうある、と引用を効果的に使うことで文章の格調を高め、説得力を上げることができます。

引用は「伝わる文章術」にとって力強い味方です。ただし、人が書いたものには著作権がありますから、引用にもルールの範囲内でという制限がかかります。

引用の主なルールは、
 ・文章を改変しないこと
 ・引用部分を明確に区別すること
 ・出所を明示すること
ですが、この他にも引用できるのは公表されたものであるなどいくつか条件があります。

<例文A 基本的な引用>
新潟まで新幹線で行くとき、私はいつも「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」(『雪国』川端康成)という一文を思い出す。

<例文B やってはいけない引用>
新潟まで新幹線で行くときには、いつも「国境の長いトンネルを抜けると、そこは雪国であった」という一文が私の頭に浮かぶ。

例文Bは引用部分を「 」で区別しているものの、出処を明示していませんし、文を一部改変しています。しかも「国境の……」が自分の創作のようにも読めます。NGです(ただし、この有名な一文には著作権が存在しないという見解もあります。理由はだれが書いてもこうなるからと言われています)。

<例文C 効果的な引用>
事業とは何だろうかと考えたとき、ひとつの解答に遭遇した。
「事業の目的として有効な定義はただ一つである。それは顧客を創造することである。」(『マネジメント』ピーター・F・ドラッカー)

事業家とは、お客さまがいるから事業をするという受け身ではダメなのだ。お客さまを創るという積極的で主体的な考え方が必要なのである。

<例文D ダメな引用>
事業とは何だろうかと考えたとき、ひとつの解答に遭遇した。
「事業の目的として有効な定義はただ一つである。それは顧客を創造することである。」(『マネジメント』ピーター・F・ドラッカー)

私もそう思う。

これでは、自分の意見や考えがかすんでしまいます。文章の主体はあくまでも自分の意見、考えです。せっかくの引用を単なる「紹介」に終わらせてはいけません。

次回に続く

 

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プロフィール

亀谷敏朗
亀谷敏朗

1984年中堅ビジネス書出版社だった中経出版に入社。本づくりのかたわらセミナー事業、コンサルティング・ビジネスにも携わる。また、在職中は中小企業から一部上場企業までを横断した、企業内の教育担当者の異業種交流会を主催した。
2004年フリーの出版プロデューサーとして独立。主にビジネス書作家のデビューを支援する。
支援の一環として、新人作家の原稿づくりのアドバイスを手掛けたことから、改めて伝わる文章の研究を始める。
「名文は要らない」、「読者と編集の立場から見たわかりやすい文章」に軸足を置いた方向で、新人作家には文章の書き方をアドバイスしている。

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