伝わる文章術

あえて「具体性を伝えない」メールを書く技術

2019.08.08 公式 伝わる文章術 第33回
Getty Images

何と言えばよいかわからないし、
スルーもできない……

取引先から何らかの提案をもらったが、回答するには社内のコンセンサスや意思決定機関を通すことが必要なため、すぐには返事ができない。
しかし、相手は重要な取引先である。返事をせずにスルーのまま放置したのでは失礼だ。
さて、何と言えばいいか。

メールでは、ときどきこういうシチュエーションに遭遇することがあります。
下手な答え方をして、後で問題になっては困るし、といって紋切り型の対応で先送りしては相手が納得しないでしょう。
いっそ見なかったことにしたいところですが、無視して相手の不興を買ったのでは、以後こちらの立場が不利になってしまいます。
進退窮(きわ)まるとは、きっとこういう状態のことを言うのでしょう。
過度な期待を抱かせず、失礼な印象も与えない逃げ切り型のメールの技術も、ビジネスでは必要なときがあります。

とにかく返事が難しいメールをもらったとき、最もやってはいけないのは、どう返信するかに逡巡して、いつまでも返信をしないことです。
慎重かつ迅速、これがこの種のメールに対する基本動作となります。

基本は多くを語らないこと

取引先から、すぐには返答しかねる提案をもらったとき、相手がそれほど有力取引先でなければ、事務的なメールで返信し、結論を先送りすることも可能です。

<文例A 事務的な返信メール>
ご提案たしかに拝受いたしました。
ありがとうございます。
関係者と諮(はか)りまして、なるべく早い時期にご返答申し上げるようにいたします。
暫くご猶予をください。

これでは、普段もっとフレンドリーなメールでやりとりをしている相手だと、あまり事務的では何か不都合があるのかと違和感を覚えるはずです。
今後もお付き合いをしたい重要な取引先に対しては、ちいさな違和感とはいえ、そこから信頼関係に傷をつけるような事態に発展させたくありません。

<文例B 相手に感謝の意を伝えつつも結論は先送りとするメール>
〇〇様のご提案たしかに拝受いたしました。
いつもご配慮いただき、大変感謝しております。
また、いろいろ教えていただきたいと思っておりますので、機会をつくっていただけますと幸いです。

あまり長々と書くと言質を残してしまいます。できるだけ問題の核心から離れることが、あえて「具体性」を伝えないメールの基本です。
この返信メールでは、提案が届いたこと以外は何もわかりませんが、それは会ったときのことだなという程度の忖度は相手もしてくれるはずです。

過度に期待させず、いたずらに失望もさせない

せっかくの提案ですから、できることなら何とか通したいと担当者なら思うはずです。
しかし、安易に期待を持たせるようなことを答えて、「話が違うじゃないかと」ガッカリさせては、かえって事態を悪化させてしまいます。
こちらの誠意は伝えたいが、過度な期待は抱かせたくない。バランスのとり方の難しい綱渡りです。
まず、過度な期待を抱かせかねないほうのメールから見ていきましょう。

<文例C 相手に期待を持たせかねないメール>
価格改定のご提案たしかに受け取りました。
昨今の経済事情に鑑みますと、やむを得ないかもしれません。
社内で諮りまして、なるべく早い時期にご返事いたします。

価格改訂の提案というのは、相手が仕入れ先であれば値上げ、納品先であれば値下げ要求ということになりましょう。
納品先であれ、仕入れ先であれ、今後もお付き合いしなければならない大事な相手からの申し入れという場合、担当者としては、そう冷たい態度をとるわけにはいきませんから、つい理解を示してしまいそうになります。
理解を示されれば、相手は期待できるかなと考えがちです。
もちろん、価格改定は身を切る決断ですので、メール一本で価格交渉の話が付くはずがなく、相手もそこは承知のことに違いありません。
それでも期待してNGだと、ガッカリ感は大きくなります。

<文例D 過度に期待させず失望もさせないメール>
価格改定のご提案たしかに受け取りました。
〇〇様のご提案の趣旨はよく理解できました。
社内で諮りまして、なるべく早い時期にご返事いたします。
双方にとって、今後もウィン・ウィンの結果となる方向を目指したいと思っております。

大事なことは、「どこをどう」という点に踏み込まないことです。
ウィン・ウィンというのは、こういうときには便利な言葉で、とりあえず前向きにやりましょうという以外に、確たる意味を持ちませんが、何となくよい方向に努力するような印象を与えることができます。

ご感想はこちら

プロフィール

亀谷敏朗
亀谷敏朗

1984年中堅ビジネス書出版社だった中経出版に入社。本づくりのかたわらセミナー事業、コンサルティング・ビジネスにも携わる。また、在職中は中小企業から一部上場企業までを横断した、企業内の教育担当者の異業種交流会を主催した。
2004年フリーの出版プロデューサーとして独立。主にビジネス書作家のデビューを支援する。
支援の一環として、新人作家の原稿づくりのアドバイスを手掛けたことから、改めて伝わる文章の研究を始める。
「名文は要らない」、「読者と編集の立場から見たわかりやすい文章」に軸足を置いた方向で、新人作家には文章の書き方をアドバイスしている。

出版をご希望の方へ