なめてくるバカを黙らせる技術

愛されるより恐れられよ、なめられ続けてきた筆者が行き着いた真理

2025.02.26 公式 なめてくるバカを黙らせる技術 第2回
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「いつも私だけ扱いが雑」「待ち合わせをするといつも遅刻される」「損な役回りを押しつけられがち」
気にしても仕方ないと思いつつ、「私、なめられてるのかな」と悩んでしまう。そんな人は少なくないようです。じつは、この「なめる/なめられる」問題はささいなことのようで、人間関係、仕事、ひいては人生すべてさえ左右する重要なトピックスです。
実業家でライターでもある黒坂岳央氏は、グローバル企業で多国籍な環境での勤務経験、独立起業を経て、「なめられると人生で損をする」という真理にたどり着いたそうです。この連載を通し、なめられないようにするためのノウハウ「なめてくるバカを黙らせる技術」を指南します。

素人は付け込まれる

前回の記事では、なめられると人生で損をする、ということについて説明した。
その中で、私自身なめられて損をする体験を重ねてきたと書いたが、今回は私が経験してきたエピソードを紹介したい。

10年ほど前、私は勤めていた会社に勤務しながら週末起業に挑戦していた。事業を始めるうえでとりあえず欠かせないのが、ウェブサイトである。
今はコーディングの知識なんてなくてもワードで文章を打つ感覚で誰でも簡単にウェブサイトが制作できるが、10年前は事情が違った。制作業者に依頼をして作ってもらうか、イチから自分で制作技術を身につけるしかなかったのだ。
本業をおろそかにして制作技術を身につけるのは現実的ではない。そう考えた私は、外注することにした。

そんなわけで私は、なけなしの貯金から30万円を支払って、とある業者に制作を依頼した。
その業者は調子よくサイトの制作を進めてくれて、デザイン技術も素晴らしかった。
すべてが順風満帆に進んでいる、そう安心しきっていたある日、唐突に業者から連絡があったのだ。
「本日で会社をたたむことにしたので終了となります。続きは他の業者に頼むか、自分で作ってください」
あまりにも急な話だった。今改めて考えてみると、計画倒産だったんじゃないかと思う。夢と希望を託していたのに、独立の船出でとんでもない目にあってしまった。

とはいえ、泣き言を言っても始まらない。意気消沈しつつも私は、即日で別の制作会社を探した。もう誰でもいいので完成させてほしい。そう思って泣きつくように、東京にある制作会社に行き着いた。
今回は前回の反省をいかして、支払い後に逃げられないよう、社歴が長くて簡単に潰れないところ、というのを条件に入れていた。過去の制作実績を見るとしっかりしているように感じる。よし、ここにしよう、私は即決した。

これまでのトラブルも交えつつ事情を説明し、「こちらは完全に素人なので、すべてをお任せできる業者を探していた」と伝えると、社長は体育会系のビジネスマンで「当社に任せてください」と胸を張ってくれた。
その雰囲気に頼もしさを感じ、すぐさま再び30万円を支払い、ここをこういうふうに作ってくださいと事細かに文書化した要件を渡してお願いをした。
3ヶ月後、「できました」と連絡を受けて見せられたサイトを見て、私は椅子から転げ落ちるほど驚いた。
……悪い意味でである。
こちらのお願いした要件とはかけ離れた出来栄えになっていたのだ。
たとえば「背景は黒で文字は白」とお願いしていたのに、「背景は透明感のある淡い白を基調とし、文字は高級感のある黒色を採用しました」と説明が書かれていた。いろいろと言い訳がましく書かれていたが、素人目に見ても、背景が白、文字が黒という初期設定のままだった。
その他、お願いしていた機能がことごとく無視され、他社で使っていたであろう機能の流用も散見された。今なら、ワードプレスの5000円くらいで買えるテンプレートテーマ以下の出来栄えだった。

あまりにひどすぎると感じ、お願いしていた通りに作ってほしいと頼んだところ、「それでは作り直しにさらに30万円をいただきます」と言われて絶望した。
自分はウェブ制作の素人で、技術的なことはわからない。でも、完成イメージはしっかり伝えていたし、イメージとかけ離れていたものを出されても到底納得できるわけがない。
しかし、当時は自分も若かった。話が違うと相手と交渉する力もなく、泣き寝入りするしかなかった。結局、独学をして自分でウェブ制作をした。

おだてられる人も付け込まれる

また別のエピソードを紹介したい。
始めた事業が曲がりにも軌道に乗り出したある時、テレビ番組から出演の声がかかったのだ。
テレビ制作会社から「番組の企画について」と電話連絡が入った。そして、「あの◯◯の有名番組に出演いただくことになりそうです。出演料は◯◯で……」という話をされた。
喜び有頂天になってしまった私は、ホイホイと自分が知っている情報をペラペラとしゃべった。相手も、とにかく自分をおだててくる。「いやあ、さすが専門家の深い知見で素晴らしい」と。自分はますます調子に乗ってペラペラと1時間、2時間と話し続けた。
翌日も電話がかかってきたので同じように饒舌に話したのが、途中から雲行きが怪しくなってきた。出演の具体的な話がされないのである。もしかして自分は情報を抜かれているだけでは? と感じてきた。
その予感は完全に的中する。後日、自分が話した内容を元にした番組がオンエアされていたのだ。

いやいやさすがにお前の被害妄想じゃないのか、と思われるかもしれない。だが違う。自分しか知り得ない体験談を「詳しい専門家の証言によりますと……」という体で紹介されていたのだ。
結局、自分は相手の手の上で踊らされ、都合よく情報を抜き取られて番組制作のネタ作りに利用されていただけだった。もちろん出演もできず、ギャラもない。相手から完全になめられていたのだ。

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プロフィール

黒坂岳央
黒坂岳央

シカゴの大学で会計学を専攻し卒業。複数の東証プライム上場企業でキャリアを積んだ後、独立。アゴラ、プレジデント、Yahooニュースなどの雑誌やネットメディアでの記事執筆実績を多数持つ。地上波テレビ出演、ラジオ番組にも出演し、これまでに商業出版された書籍は3冊を数える。

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