
みなさん、はじめまして。村本篤信(むらもと・あつのぶ)と申します。
おそらくほとんどの方が、「誰?」「知らんがな」と思われたでしょうが、私は大学卒業後、8年強の印刷会社勤務を経て、2003年から20年近く、フリーランスのライター・エディターをしています。
これまで携わった書籍のトータルの売り上げ部数は300万部近く。
ほかにも、さまざまな分野の著名人や専門家、経営者などに取材をし、雑誌や広報誌、ウェブメディアの記事としてまとめたり、コラムを書いたり、時々は舞台、ドラマの脚本を書いたりしてきました。
一方で私は、1994年から30年近く、ドラァグクイーン「エスムラルダ」として、新宿二丁目を中心に活動しており、メイクをしてイベントやメディア等に出演し、ショーをしたりMCをしたり、歌ったりお芝居をしたりしています。
昼も夜もちょっと特殊な仕事をしているとはいえ、私は特別何かのジャンルに詳しかったり、何かを極めたりしているわけではありません。読みやすく伝わりやすい文章を書くよう心がけてはいますが、筆が速い方ではありませんし、私よりも文章の上手い方はたくさんいらっしゃるでしょう。
ただ、そんな私が、ドラァグクイーンとして27年、ライターとして18年、なんとかやってこられた理由の一つは、私が「話しやすい人」だったことにあると思っています。
自分で言うのもなんですが、私は今まで、人からよく「話しやすい」と評価されてきました。
もしそれらの言葉がすべてお世辞だった場合、これから私が書こうとしていることはすべて何の説得力も持たない、ただの机上の空論、砂上の楼閣になってしまうのですが、実際に、多くの人が心を開き、いろいろなことを話してくれたことを考えれば、おそらく真実ではないかと思います(そう信じたい)。
そして、話しやすい人であることは、ビジネスにおいてもプライベートにおいても、大小さまざまなメリットをもたらしてくれました。
話しやすい人だと、取材がスムーズに進みますし、たくさんの人と仲良くなることができ、情報も集まってきます。私はフリーランスになって以来、営業活動らしいことをほとんどしたことがなく、仕事はすべて、人とのつながりによって舞い込んできました。そんなご縁をいただき、育むことができたのは、話しやすい人だったおかげではないかと、私は思うのです。
やや前置きが長くなってしまいましたが、この連載のテーマは「話しやすい人について」です。
私は決して、話しやすい人になろうとしてなったわけではなく、どれほど実践的で役に立つことをお伝えできるかわかりませんが、「話しやすい人とはどのような人なのか」「話しやすい人になるにはどうすればいいのか」「話しやすい人になるとどのようなメリット・デメリットがあるのか」といったことを、みなさんと一緒に、掘り下げていきたいと思います。
さて、これまで何の説明もなく「話しやすい人」と何度も書いてきましたが、そもそも話しやすい人とはどのような人なのでしょうか。いろいろな意見があるでしょうが、私は、話しやすい人には、だいたい次のような特徴があるのではないかと思っています。
① オープンマインドである。
② 相手が気持ちよく話せるようなリアクションをとる。
③ 聞いた話を誠実に受け止める。
それぞれについて、今後、丁寧に書き進めていく予定なので、ここでは簡単に説明するにとどめましょう。
まず①ですが、話しやすい人は何といっても、オープンマインドです。
ちなみに、オープンマインドとは、自分をありのままさらけ出すことをいとわず、他人に興味を持ち、他人を受け入れられることを指します。
みなさんは「返報性」という言葉を聞いたことがありますか?
これは、心理学の用語で、「人が、他人から好意などを受け取ったときに、『お返しをしなければ』という感情を抱くこと」を意味します。
つまり人は、基本的には「相手が、自分自身を包み隠すことなく相対してくれている」「こちらを受け入れてくれている」と感じたときに、自然と「自分も、自分自身を包み隠すことなく相対したい」「相手を受け入れたい」と思うものなのです。
みなさんも、身の回りの「話しやすい人」「話しにくい人」のことを思い浮かべてみてください。
「この人は大事なことを隠しているな」
「この人のことは信用できないな」
「この人に私のことを話しても受け入れてもらえなさそうだな」
そのように感じた人に対して、なかなか積極的に「話をしたい」という気持ちにはなれないはずです。
しかしオープンマインドであることは、話しやすい人の大前提ともいえる特徴でありながら、非常に難しいことでもあるといえます。
他人に自分をありのままさらけ出すためには、自分が自分自身のすべてを受け入れ、肯定する必要があるからです。
もちろん、そんな「面倒なこと」をせずに、たとえば「自分の、過去のどうでもいい失敗談をあけすけに語る」などのテクニックを用いて、さも「自分をありのままさらけ出しているかのように振る舞う」ことも可能です。実際、それが通用することもあるでしょう。
でも、そうした小手先のテクニックは、鋭い人には見破られますし、最初はだまされていた人も、つきあいが深くなればなるほど、「ああ、この人は自分をさらけ出しているように見えて、まったくさらけ出していなかったんだな」と気づくようになります。
そうなると、テクニックを弄した相手への信頼度はゼロどころか、ときにはマイナスになることもあるため、「小手先のテクニックばかりを駆使すること」は非常に危険であるといえます。