話しやすい人になれば人生が変わる

凄腕ライターが使っている「話しやすい」と思わせる技術

Getty Images

取材やイベントの司会の前には、必ず下調べをする

これまで、話しやすい人と思われるための方法について、どちらかといえば一般論に近いことをお話ししてきました。
今回は少し趣向を変え、ライターとして、あるいはイベントなどの司会者として、人の話を聞く際に、私がふだんどのようなことに気をつけているかをみなさんにお伝えしたいと思います。

まず、取材やトークイベントの司会をする前に、私が必ず行うのが下調べです。
取材やイベントを円滑に進めるためですが、事前の下調べは話しやすい人と思われるうえでも非常に重要です。
下調べをしっかりすることで、相手の話を理解したり、相手が話したいことを引き出したり、相手の話を広げたり深めたりすることが容易になるからです。
下調べをすることによって、取材相手や取材内容、トークのテーマなどへの興味や好意が増すことも、よくあります。

最初に調べるのが、取材相手や登壇者について、です。
今は、インターネットという便利なものがありますから、wikipediaなどでその方の経歴などを把握し、その方が過去に受けたインタビュー記事がアップされていれば読み、その方がツイッターやブログなどをされていれば、それらにも目を通します。
その方が本を出していたり、音楽や映像を発表していたりする場合は、一つの作品だけでもいいから、時間の許す限り読んだり聴いたり観たりします。

これらをチェックし、その方の人となりや考え方をある程度把握できれば、自ずと聞いてみたいこと、話してほしいことなどが浮かんできますし、逆に、相手が話したくないこと、触れてほしくないこともわかってきます。

さらに、話の内容についての基礎知識も頭に入れておきます。
たとえば、腎臓に関する話を聴くなら腎臓、投資に関する話を聴くなら投資について、ネットで調べたり、関連書籍を読んだりします。

基本となる腎臓の仕組みや働き、投資の種類ややり方などをおさえておくことで、相手の話をスムーズに理解できるようになりますし、基本的な部分について話を聴く時間が短縮でき、より深く専門的な話を聴くことができます。

逆に、何の知識もなく話を聴きに行ったら、話の内容を理解できず、質問をすることすらできないでしょう。
あるいは、基本的な用語や仕組みなどについて、相手に何度も説明させることになってしまうかもしれません。
それでは相手はうんざりして、話をする気を失ってしまいます。

そして、仕事で調べたこと、知ったことは、ゲイバーでの接客やプライベートの会話においても非常に役に立ちます。
基礎的な知識が自分の中に蓄積されていくことで、さまざまな話題に対応できるようになりますし、それもまた「話しやすい」と思っていただけることにつながっているような気がします。

下調べをすることは、「話しやすい人」と思われるための近道

きちんと下調べをしておくと、相手に「この人は、自分に興味を持ってくれている」「もっと話したい」と思ってもらえる……という効果もありますし、思いがけない話が聞ける可能性も高まります。

たとえば、アーティストに新しいアルバムについての話を聞く……といった場合、その新作に関する取材記事がすでにネットや雑誌に載っていれば、必ず目を通します。
既存の記事に書いてある内容に関しては、「今回のアルバムのテーマは~ですよね?」「今回のアルバムを作られたきっかけは~だと書いてしまって大丈夫でしょうか?」といった具合に確認だけとり、その分の時間で別の質問をすることもしばしばあります。

取材できる時間は限られているのに、わざわざ本人から聞かなくても知りえる情報に時間を割くのはもったいないから……というのが一番の理由ですが、「相手は、もしかしたら同じような質問を何度も受けてうんざりしているかもしれない」と思うためでもあります。その場合、こちらがほかの記事に書かれているようなことを尋ねると、相手は「この人は自分に対して何の興味もなく、何も調べず、ただ仕事で来ているだけなんだな」という気持ちになってしまうかもしれません。

逆に、既存の記事に書いてあることをこちらがきちんと把握していることがわかれば、「この人は、ちゃんと自分や自分の作品に関心を持ってくれているんだな」と思ってもらえるでしょう。

そのうえで、既存の記事の内容で疑問に思ったことを質問する、アルバムを聴いたうえでの自分の感想を(あまり長くならない程度に)伝える、といったことができれば、相手の考えが深まったり、忘れていたエピソードを思い出したりして、今までの取材では話していなかったようなことが聞ける可能性が高まります。

そうすれば、ほかのライターには書けない、オリジナリティのある原稿を書くことができますし、相手からも「おかげで自分の考えが整理できた」「新たな発見があった」と感謝されるかもしれません。
そのような取材ができれば、「話しやすい人」と思ってもらえるでしょうし、取材相手や編集者から喜ばれ、次の仕事にもつながりやすくなります。

取材や司会の前に、きちんと下調べをしておくことは、私にとって、相手への敬意を示すことであり、「話しやすい人」と思われるための、そして仕事をスムーズに進めるための近道なのです。

みなさんも、仕事などで新たに誰かを紹介されたり、誰かと知り合ったりすることがあれば、相手についてさらっと下調べをしておくと、話しやすい人と思われ、関係が深まりやすくなるかもしれません。

ただ、一つ気をつけなければいけないのは、下調べの目的は、決して「私はあなたについて、これだけ知っています」と知識をひけらかすためではなく、調べたことを長々と話すのはむしろマイナスになってしまうということです。

調べて知ったことはつい相手に伝えたくなってしまうものですが、その気持ちはぐっと抑えなければなりません。
どれほど調べようと、相手のことを一番よく知っているのは相手自身ですし、過剰にアピールしても、相手にはうっとうしがられるだけですし、自分の「知っている」アピールに夢中になって、相手の話す時間を奪っては本末転倒です。

ですから私は、調べたことは、話の序盤で、あるいは話の途中の良きタイミングで一言二言チラッと口に出す程度にとどめるようにしています。

また、もしかしたらみなさんの中には、プライベートで知り合った人や好きな相手に関して調べまくってしまうという人もいるかもしれません。
私もすぐいろいろと調べたくなってしまうタチなので、その行動自体を否定はしませんが、くれぐれも、調べたことをあまり相手に悟られないようにしましょう。
仕事関連ならともかく、プライベートで、あまりにも相手が自分について調べすぎている、知りすぎているとわかると、たいていの人は相手を「話しやすい人」と思うどころか、恐怖心と警戒心を抱いてしまうからです。

ご感想はこちら

プロフィール

村本篤信
村本篤信

1972年大阪府生まれ。都立国立高校、一橋大学社会学部卒業。大日本印刷に入社後、フリーのライター、編集者に転身。 『3000円投資生活』シリーズ(横山光昭)をはじめ、累計250万部以上 の書籍を手がけたほか、取材記事、社史などのライティングを行い、2021年には『ロジカルメモ』(アスコム)を刊行。 2012年に「テレビ朝日21世紀新人シナリオ大賞」優秀賞を受賞して以降は、ドラマや舞台の脚本も執筆。 一方で、90年代よりホラー系ドラァグクイーン「エスムラルダ」として、各種イベント、メディア、舞台公演などに出演し、2018年からは及川眠子・中崎英也のプロデュースにより、ディーヴァ・ユニット「八方不美人」を結成。エスムラルダ名義でのコラムや書籍のライティングも行っている。

出版をご希望の方へ