一生折れないビジネスメンタルのつくり方

名越康文「あきらめる」ことが生む「自信」

Getty Images

「答え」がはっきりしていたとしても「納得」するのは難しい

答えがわかっていても、それを受け入れ実行するのは難しいことが、人生にはたくさんあります。

「自分に自信が持てるようになるにはどうすればいいか?」というのも、そうした問いのひとつです。この質問には、過去、何百回と繰り返されてきた「正解」があります。しかし、多くの人はその答えを聞いても、なかなかそれを実行することができません。

それは、「ありのままの自分を受け入れる」ということです。

仕事であれば、会社での評価や売上、プライベートなら友達の数や恋人の有無。そういった「自分の外側の基準」に惑わされるのではなく、ただありのままの自分自身を受け入れる。それこそが本当の自信を手にする、ただひとつの道である……。

おそらく、多くの人が、これと同様の答えを見聞きしたことがあるはずです。というのも、古今東西、多くの賢人たちの答えも、枝葉の部分に違いはあれど、最大公約数を見ると、だいたいこのあたりに落ち着くんです。

そして、僕の答えも「結論」としては同じです。いくら仕事で成果を上げても、出世をしたとしても、人はどこかで「ありのままの自分を受け入れる」ことなくして、「本当の自信」を手にすることはできません。これはおそらく間違いなく、人間の本質に沿った鉄則なんです。

ところが、です。この「答え」は、「自分に自信が持てない」と今まさに悩んでいる渦中の人の心には、決して響きません。どれほど懇切丁寧に教え説いたとしても、きっと納得してはくれないし、変わることはできません。

当然ですよね。だって「自分に自信が持てない」と悩んでいる人は、今の自分が嫌いだから、自信が持てないんです。仕事がうまくいかない、周囲からの評価もかんばしくない。何をやっても「自分ならやれる」と心から自信を持つことができない。そんなふうに悩んでいる渦中の人が、「ありのままの自分を受け入れなさい」なんて言われても、「そんなの無理!」となってしまって当たり前ですよね。

というわけで、今回はひとつずつ階段を登っていくように段階を追って、自信について、考えてみることにします。なかなか本題に近づかなくてじれったく感じるかもしれませんが、読み進めていただければ、きっとそのほうが「早道」だということに気付いていただけると思います。

本当の自信と、ハリボテの自信

さて、そもそも「自分に自信がある」って、どういうことなんでしょう。

「自信満々の犬」とか「いまひとつジャンプ力に自信が持てないバッタ」みたいなものを、たぶん私たちはうまく想像することができません。実際に彼らがどうなのかはともかくとして、自信があるかないかということが生活の中で問題になるのは、人間だけと言っていいでしょう。

いつもバリバリと仕事をこなす同僚のAさんは、自信に満ちあふれているように見えます。実際、Aさんは能力的にも優れた部分を持っているかもしれませんが、それ以上に「自信がある」ことによって、成功を引き寄せているように見えます。

それに比べて、なかなか出世できないBさんは、いつもどこか自信なさげです。スキルや知識がないわけではないはずなのに、自信がないから会議でも発言しません。だから結局、成果を上げ、出世するチャンスを逃しています。

こんなふうに、自信というのは、ただその人の内面の問題というより、仕事の成果や人生の成功を左右する、大きな要素になっています。

また逆に、仕事の成果や家族、友人関係や恋愛が、その人に自信をつけさせたり、失わせたりする要因にもなります。「自分に自信が持てない」と悩んでいる人は、自覚しているかどうかはともかく「自分はどの程度社会に適応できているのだろう?」ということに不安を覚えている人なのです。

では、仕事で成果をあげ、同僚や上司、あるいは家族から高い評価を得ることができれば、私たちは「自信を持つ」ことができるのでしょうか? 仕事で成果をあげれば自信がつき、自信がつけば、さらに仕事の成果もあがっていく。そういう「成功のループ」に入っていけば、それで自信の問題は解決なのでしょうか?

もしかすると、世間一般では、自信というのはそういうものだと考えられているかもしれません。しかし、精神科医という立場で多くの人と接してきた私が感じているのは「それだけでは十分ではない」ということです。

「社会に適応すること」は自信を持つための「必要条件」ではあります。ただ、残念ながら「十分条件」とはいえません。客観的に見れば、バリバリ仕事をして、十分な社会的評価を得て、友人もたくさんいるにもかかわらず、なぜかいまひとつ「自分に自信が持てない」という人が少なくないのです。

もちろん、社会の中での居場所や評価を得ることは、自分に自信を持つうえで大切です。自信を持ちたければ、私たちは普通、仕事を頑張ったり、勉強したり、あるいは人付き合いをして関係を深めようとし、実際そうやって成果を積み上げていけば、ある程度、自信を持つことはできるはずです。

ところが、「自分にどうも自信が持てない」という悩みは、まさにそうやって頑張っている人の中で、芽を出してくる傾向があるんですね。少なくとも「社会に適応している=自信が持てる」という図式が単純に成り立つほど、自信というのは、一筋縄で手に入れることができないものなんです。

ご感想はこちら

「一生折れないビジネスメンタルのつくり方」 記事一覧

プロフィール

名越康文
名越康文

精神科医。相愛大学、高野山大学客員教授。専門は思春期精神医学、精神療法。
臨床に携わる一方、TVやラジオ番組でのコメンテーターや映画評論、漫画分析など、さまざまな分野で活躍する精神科医。
近著に『「SOLO TIME」ひとりぼっちこそが最強の生存戦略である」』などがある。

ピックアップブログ推薦 出版をご希望の方へ

公式連載