一生折れないビジネスメンタルのつくり方

名越康文 「不安」を払えば不調は怖くない

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身体と心の状態をチェックする簡単エクササイズ

仕事がうまくいかないとき、やる気が出ないときに、気分転換をする人は多いと思います。インターネットで動画を見る人もいれば、マッサージ屋さんに行く人もいるでしょう。あるいは漫画を読んだり、美味しいものを食べたりと、気分転換の方法は人それぞれだろうと思います。

ただ、数ある気分転換の方法のなかでも、私がおすすめするのは、「身体を動かす」ことによる気分転換です。スポーツジムに行ったり、ジョギングをしたりといった本格的なものもありますが、デスクの周りで手足を伸ばしたり、首や肩、足首などをゆっくり大きく回すなど、ちょっとした体操やストレッチも効果的です。

なぜ、身体を動かことがいい気分転換になるのか。それは、身体と心は「一体」だからです。不安や怒り、ねたみや焦りを感じているとき、私たちの身体には必ずどこかに、不自然な緊張やこわばり、鈍い痛みなどの違和感が生じています。逆に、全身がリラックスしているときには、私たちはネガティブな感情にとらわれることはありません。

身体と心が一体であることは、次のような簡単なエクササイズでも確かめることができます。

まず、蹲踞(そんきょ)という姿勢を取ってみましょう。つま先立ちでしゃがむ、お相撲さんや剣道の人が、試合の前にやっている姿勢です。やってみるとわかりますが、この姿勢を取ること自体が、西洋式の生活に馴染んだ現代人にとっては意外に難しいものです。

やり方は極めて簡単、蹲踞の姿勢でどれくらいの時間、安定を維持できるかを試してみるわけです。年齢によっても違いますが、少しでも心ここにあらず、つまり何かを上の空で考えた瞬間、バランスを崩す人が多いのではないでしょうか。特に心に不安があったり、心配事があって落ち着きのないときには、10秒もしないうちにバランスを崩し、姿勢を維持することができなくなってしまいます。

蹲踞の姿勢を取るとき、私たちは身体の重心を背筋に沿って真っ直ぐ降ろすことでバランスをとっています。心が乱れていると、必ず身体の重心の位置も乱れます。そうするとすぐさま、蹲踞の姿勢は崩れるのです。

つまり、蹲踞の姿勢をどれくらいの時間保てるかということで、そのときの精神状態の良し悪しを、ある程度、測ることができるのです。また、これは逆も成り立ちます。つまり蹲踞の姿勢をしばらく維持することによって、心はある程度落ち着くのです。

身体を観察するだけで調子が上がる!?

特にデスクワークの方にありがちですが、仕事に夢中になっていると、自分の心身の調子の変化に気づきにくくなります。自分では無理をしているつもりはなくても、疲労をたくさん溜めて仕事をしている人は少なくありません。

そういう人は、目をつむって、自分の身体を観察してみてください。呼吸が浅くなっていないか、背中がこわばっていないか、肩に力が入りすぎていないか……。身体のどこがだるいか、胃腸に違和感はないか、姿勢がかたよっていないか……。特に身体を観察してみて驚くのは、身体の中にはいつもどこかに微かではありますが、「痛み」や「痺れ」や「気持ち悪さ」というものがあり、それが絶えず現れたり消えたりしていることです。

初めはあまりコツがつかめないかも知れません。でも何度か試みているうちに、あるときフッと、体の中の動きを捉えられるようになるでしょう。

焦りや不安で精神状態が悪いときというのは、必ず身体のどこかに、その兆候が出ています。そして、その兆候を、実際に症状が出る前に感じ取れるようになると、不思議なことに、毎日ほんの5分でも目をつむって自分を観察しているだけで、しだいに身体の調子が崩れにくくなり、好不調のブレがなくなり、仕事のパフォーマンスが底上げされてくるんです。

ターゲットは「不安」

先ほど述べたように、自分の身体を観察すること自体、身体の調子を整える力強い作用があります。しかしそれだけではありません。もう1つ、仕事のパーフォマンスを確実に上げる要因があります。それは、自分の心身の調子をモニタリングすることによって「不安」が軽減されるからです。

調子の悪いときというのは、私たちは「調子の悪い自分」を「自分の実力」だと思いこんでしまいがちです。

「こんな簡単なミスばかりをしている自分は、仕事ができないダメな人間ではないか」
「この仕事には向いていないんじゃないか」

実際、ミスを繰り返したり、仕事の成果もあがっていなければ、こういう不安にとらわれるのも無理はありません。しかしながら、この「不安」こそが、実は「調子を落とす」最大の原因なのです。

本当は、どんな人であっても、好不調の波があります。つまり不調は固定したものではなくて、時間の波の一部なのです。どれほど調子が悪くても、ずっと悪いままではありません。いつか必ず、いや、案外早い時期に調子は上向いてきます。ところが、「自分は仕事ができない人間なんじゃないか……」という不安が強すぎると、ちょうど心に悪いイメージの“レッテル”を貼ってしまうような効果が生じて、不調が続いてしまいやすくなります。また、こういう不安にとらわれているときは「なんとか挽回しなければ」と焦って余計な仕事に手を出し、かえってミスを招き、さらに自信を失ってしまうという悪循環に陥ることも少なくありません。

調子を落としているときに必要なことは「このまま不調が続くのではないか」という不安を払い、「なんとかなるさ」という、ある種の楽観主義を持つことです。
ただし、不安を払うためには「不安はよくないのだ」などと“心がけ”るだけでは、十分な効果は期待できません。それよりは、ほんの10分ほどでも休憩して、その間に深呼吸を数回する、身体を動かす、お茶やコーヒーブレイクをする、など具体的に節目の時間を持つのがよいのです。

そうして一度でも不安の軽減を実際に経験すれば、再び不調で落ち込んでしまっても、

1)これは本来の自分ではない
2)不安から解放された明るい自分に戻ることができる

という2点を、筋道を立てて思い出すことで不安は減少します。こうして1日のうちで不安に陥る時間が減少していけば、不調に陥る回数自体も減っていきます。なぜなら「このままずっと、調子が悪いままだったらどうしよう」という底なしの不安こそが、実は不調を引き起こす最大の原因だからです。

「いまは確かに調子が悪いけれど、時間が経てば必ず、いいときがやってくるさ」という楽観的な希望を信じる。その信じる根拠となる鍵が、自分の心身の状態をモニタリングすることなのです。

心身の状態を常日頃からモニタリングしていると、自分の調子の「波」が把握できます。1日の間の変化はもちろん、1週間、1ヵ月……、といった、まとまった期間の「波」を自分なりに把握することができれば、多少調子を落としたところで、「また調子が上向いていく」ということを信じられるようになるのです。

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プロフィール

名越康文
名越康文

精神科医。相愛大学、高野山大学客員教授。専門は思春期精神医学、精神療法。
臨床に携わる一方、TVやラジオ番組でのコメンテーターや映画評論、漫画分析など、さまざまな分野で活躍する精神科医。
近著に『「SOLO TIME」ひとりぼっちこそが最強の生存戦略である」』などがある。

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