一生折れないビジネスメンタルのつくり方

名越康文 人前であがって失敗しそうなときに読む話

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「人前であがるのは悪いことではない」と気づく

人前に出ると、どうしても緊張してしまう。声がうわずり、早口になり、顔が赤くなり、要領を得なくなってしまう。

ビジネスでも、他社相手のプレゼンや、初対面の人と会うとき、あるいは歓送迎会の幹事といった場面でも、いわゆる「あがり症」で悩んでいる人は少なくないようです。

人前に出ると必ずあがってしまい、失敗する。そうした「あがり症」を克服するにはどうすればいいか。相手が思春期までのお子さんの場合、私はよく「人前であがっちゃうのって、別に悪いことじゃないんだよ」とお伝えしてきました。実は、こう説明するだけで、ずいぶんと安心されて気持ちが楽になられるお子さんが多くおられるのです。

どうしてかといえば、あがり症で困っているお子さんというのは、実は「人前で緊張すること」そのものよりも、「緊張してあがってしまう自分は<駄目なやつ>なんだ」という、ネガティブな自己評価や不安にとらわれてしまっている場合が多いからです。

そうした、自分に対するネガティブなイメージや、「自分は肝心なところで必ず失敗してしまう」という暗い固定観念を取り払うと、結果的に、人前に出てもあがらなくなってくる。そういうことが起きる。

「誰だって緊張するんだよ」
「緊張するのは悪いことじゃないよ」
「もし緊張してしまっても、大丈夫だよ」

もし、人前であがりやすい傾向を持つお子さんがいらっしゃって、親や周囲の方々もこの説明が心にしっくりくるようであれば、このような声かけをされてはどうかなと思うのです。

自分の価値を低く見積もりすぎない

大人の場合も、あがり症の克服方法は基本的に同じです。「いつも緊張している自分はだめなやつだ」という悪いイメージや、「緊張して、失敗してしまうかもしれない」といった不安を払うことが、あがり症克服の第一歩となります。

ただ、大人の場合、仕事の成果が絡んでくるので、問題はちょっと複雑になります。いくら「あがったって大丈夫」だと思おうとしても、「大事な仕事で失敗してしまったらどうしよう」という不安はなかなか拭えるものではありません。

また、日頃から仕事で「失敗できない」というプレッシャーを感じている方は、自己イメージが思いのほか、深く傷ついていることも少なくありません。そういう人は、ただ「緊張するのは悪いことじゃないんですよ」と言われても、なかなかそうは思えないでしょう。もう少し、無意識のレベルに根を張った自己否定を癒していく必要があるのです。

実際、ビジネスの場面で「あがり症」で悩んでいる人に話を聞いてみると、往々にして、実際の仕事の内容に比べて、驚くほど自分の価値をかなり低く見積もっておられるケースが少なくありません。実際には十分に能力があるし、実績もあげている。同僚や上司からも、それなりに評価を受けている。ただ「自分は人前に出ると緊張してしまうダメなやつだ」という自己否定が、無意識のレベルで定着しているのです。

人前に立ったときに緊張するのは、程度の差はあれ、誰だって同じです。ただ、あがり症の人は、その緊張を「なんとかしなきゃ」と焦ってしまう。「肝心な場面で緊張してしまう自分はダメなやつだ」「次、緊張して失敗したら自分はもう終わりだ……」など、無意識のレベルで神経症的な思い込みがあるために、失敗を大きくしたり、あとに長く引きずってしまうのです。

最高のパフォーマンスは、緊張する人だけが発揮できる

ビジネスの現場で、「あがり症」で困っている人にまず目を向けてほしいのは、「緊張の効用」です。

歌手にしても、役者にしても、舞台に立つ一流の方々はみな、口をそろえて「緊張するのは悪いことではない」とおっしゃいます。というのも、緊張があるということは、それだけ自分に対して、ハイレベルのパフォーマンスを要求しているということだからです。

本気で「どうでもいいや」と思っていたら、緊張することはありません。人前で立派な振る舞いをしたい。あるいは相手に、いいメッセージを伝えたい。そういう高い志があって、「できるだけいいパフォーマンスをしたい」というプレッシャーを自分にかけているからこそ、人は緊張するわけです。

逆に言えば、「どんな場面でも緊張しない」というのは、決してよいことではないとも言えるでしょう。どんな分野であっても、真の一流は、高い緊張感をもったうえで、それを乗り越えてパフォーマンスをできる人だけなのです。

100の力のうち60のパフォーマンスをやれば十分だと思っている人は、それほど緊張することはありません。しかしそういう人は、いつまでたっても100の力を出し切ることができません。

緊張しやすい人というのは、100のうち120や150といった過剰なパフォーマンスをしようとして、失敗してしまいます。でも、だからといって「60で十分だ」というアドバイスも考えものです。自分の実力以上のものを求める心があるからこそ、人は成長するのですから。

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プロフィール

名越康文
名越康文

精神科医。相愛大学、高野山大学客員教授。専門は思春期精神医学、精神療法。
臨床に携わる一方、TVやラジオ番組でのコメンテーターや映画評論、漫画分析など、さまざまな分野で活躍する精神科医。
近著に『「SOLO TIME」ひとりぼっちこそが最強の生存戦略である」』などがある。

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