一生折れないビジネスメンタルのつくり方

名越康文 漫然と仕事をしていても「本当の自信」はつかない

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「成功体験を積めば自信がつく」の嘘

どんな仕事であっても「自信を持つ」というのは大事なことです。「一件も契約を取れないんじゃないか」と不安ばかりの人と、「自分がいけば、必ず契約を取れる気がするぞ」という自信に満ちた人であれば、営業成績には自ずと差がつくでしょう。成果が上がればますます自信がつき、成果が上がらなければ自信は失われていく。それを繰り返していくと、自信のある人とない人では、大きな差がついてしまうことになります。

では、その自信をつけるにはどうしたらいいのか? おそらく多くの人が「仕事での成功体験を積めば、だんだんと自信がついてくる」と考えているのではないかと思います。

もちろん、それである程度の自信をつけることはできます。でも、本当に「一人前」になるとか「独り立ちする」というレベルの自信をつけるには、まだ何かが必要だというのが僕の意見です。

というのも、客観的には着実に仕事をこなし、成果を積み重ねているはずなのに、どうしても自分の仕事に、心の底から自信を持つことができない、という人が少なくないからです。

部下の自信を奪う「親切な」上司

それなりに経験を積んでいるのに、なぜか自分の仕事に自信が持てない。そういう悩みを持つ人に話を聞いてみると、ある共通点に気づきます。それは、組織の上下関係が厳しく、個々人の裁量権が少ない職場で働いている、ということです。もっと簡単にいうと、「言われた仕事だけをやる職場」だということですね。

そういう職場では、上司は部下に、「達成できそうな仕事」だけを与えがちです。なぜなら、上下関係が厳しい職場では、部下の失敗はそのまま、上司の責任でもあるからです。だから、あいまいな指示ではなく「あれとこれをやれ」「ここから先はやらなくていい」というきめ細かな指示を与えます。そして、部下も余計なことはせず、言われた範囲で仕事をこなしていきます。結果、それほど大きな失敗は起きず、成果もそれなりに上がります。

しかし、残念ながらこうした上司・部下の関係性の中では、いくら仕事をしても、いくら成果を積み上げても、部下は自信をつけることができません。

なぜなら、こうした関係性の中では、部下は「ああ、この上司は、自分でもできそうなレベルの仕事を選んで私に与えているのだ」ということを、どこかで感じ取ってしまうからです。これでは、いくら成功体験を積んだとしても、なかなか「自分はやれる!」という確信に満ちた自信を持つことはできないでしょう。

「自分はやれる!」という自信をつけたければ、「言われたこと」だけをやるのではなく、自分で考え、自分で工夫する瞬間が不可欠です。この仕事は、自分がやりきったのだ、という感覚が、自信を育んでくれるのです。

「思いつく」ことが自信を作る

「自分でやりきった」という感覚が、自信を育んでくれる。かつての職人や、小規模な農業では、自然と自分で考え、自分で工夫する場面があったので、仕事の中で自然と、一人ひとりが自信を育む機会がありました。

しかし現代の会社組織における仕事では、なかなか自分で考え、自分で工夫する裁量を与えられる機会がありません。そう考えると、現代のような大きな会社組織の中で、いかにして自信を育むかということは、実は、意外に困難な課題だということができるでしょう。

私がよくお伝えしているのは、実際に試行錯誤や創意工夫をする機会がなくても、仕事のなかで自分なりに「思いつく」ということを大切にする、ということです。

例えば、「明日までにAという書類を仕上げておいてください」という仕事を頼まれたとします。もしもマニュアルに従って、それまでと全く同じ手順で、ほとんど同じ書類を仕上げただけでは、いくら仕事をこなしても、なかなか自信はついて来ません。

それに対して、同じ仕事を命じられたとしても、「この書類の書体はこっちのほうが読みやすいんじゃないか」「この文面は、こうした方が説得力があるんじゃないか」という、自分なりの改善や工夫を思いつくことができれば、その人は着実に、成長していきます。

実際には、せっかく思いついた改善や工夫も、職場のルールや上司の指示のために、実行に移せないこともあるでしょう。でも、そうやって「思いつく」ということ自体が、確実にその人の力となり、自信となるのです。

この場合の「思いつく」は、なにも「前代未聞の大発見」である必要はありません。日々の業務の中でのちょっとした思いつきであっても十分です。

以前、行きつけの喫茶店に行ったときのことです。僕はそのとき外食が多くて、ちょっと野菜が不足気味で、ふと「スムージーが飲みたいな」と思いました。その店のメニューにスムージーがないということは知っていたのですが、駄目で元元、店員さんに聞いてみました。するとその店員さんはちょっと考えて、こう答えてくれました。

「すいません、スムージーはご用意できません。でも、お野菜のサラダはご用意できます。サラダのドレッシングにはレモンが入っていて、さっぱりしていますが、いかがですか?」

僕のお願いは、普通だったら「スムージーはご用意できません」と断られておしまいです。店員さんのお仕事としては、ただ断っても、何も間違いではない。でも、この店員さんのように、お客さんが何を求めているのか、なぜスムージーを飲みたいと言っているのか、ということをひと呼吸置いて考えてみる。「スムージーを飲みたいということは、野菜を取りたいんじゃないかな? さっぱりした味で、野菜をたくさん取りたくて……」と考えることで、

「サラダをすすめる」という、まったく別の角度の答えが見つかったわけです。

もちろん、スムージーが欲しいというお客さんに、野菜サラダをすすめることが喜ばれるかはわかりません。「サラダなんかいらないよ」と言われてしまうかもしれないし、シェフや先輩に「勝手なことまで答えるな」と注意されるかもしれません。でも、少なくとも自分なりにお客さんの要望を受け止めて、工夫して、解決策を考えることは、その人の成長や自信につながることは間違いないでしょう。

僕は、この店員さんのご提案に従って、サラダを注文しました。レモンのかかった、やや苦味のあるサラダは、そのときの僕の体調にマッチして、非常に美味しかったです。

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プロフィール

名越康文
名越康文

精神科医。相愛大学、高野山大学客員教授。専門は思春期精神医学、精神療法。
臨床に携わる一方、TVやラジオ番組でのコメンテーターや映画評論、漫画分析など、さまざまな分野で活躍する精神科医。
近著に『「SOLO TIME」ひとりぼっちこそが最強の生存戦略である」』などがある。

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