一生折れないビジネスメンタルのつくり方

名越康文 部下の「独り立ち」のために必要な「ストーリーを語る」力

Getty Images

独り立ちをさせようとするとつまづきやすい!?
「最近の若手」の傾向

最近、20代の若手を部下として持つ何人かの人から、同じような悩みを聞きました。「最近の若手はすごく有能で仕事の覚えも早いのだけれど、半年、一年と過ぎて『そろそろ仕事を任せてみようか』という段階になって「<独り立ち>をさせようとすると、途端に問題が起きる」というのです。

能力も高く、言われたことはちゃんとできる。半年、1年と経験を積んできて、やるべき仕事を覚えたようなので、上司としてはもう仕事を任せて、独り立ちさせても大丈夫だと判断する。ところが、フリーハンドを与えられ、自分で考え、自分で判断をし始めた途端、パニックになったり、フリーズしてしまったりしてしまい、仕事が滞ってしまう……。

もしも、今の若者にこういう傾向があるということが事実だとしたら、いったい何が起きているのでしょうか?

まだ仕事の「全体像」を把握できて
いないだけなのかもしれない

一つひとつの業務については、上司が想定する以上にきちんとこなすことができるのに、仕事を任せて、独り立ちをさせた途端、まったくパフォーマンスを発揮できなくなってしまう。

そういう部下に接すると、上司としてはどうしても「近頃の若者は……」と愚痴りたくなってしまう場面です。

でも、よく考えてみれば、そもそも仕事を覚えて、独り立ちをするためには、それなりに時間と経験が必要なのは当然のことです。

おそらく、いま起きているのは「まだ独り立ちができるほど、仕事の全体像を把握できていない」にもかかわらず、「言われたことであればほとんど完璧にこなすことができる」若者が増えている、ということではないでしょうか。

この背景にあるのは、月並みですが、やはりインターネットの普及による、情報環境の激変があると思います。

今は、仕事に必要な一つひとつの情報であれば、スマートフォンさえあればすぐに手に入れられる時代です。上司からの指示や、仕事に必要なさまざまな情報も、メールの履歴や社内のデータベースを検索すれば知ることができる。こうした情報環境をうまく活用している若者たちは、ひと昔前だと考えられないくらいのスピードと的確さで与えられた仕事をこなせるようになっているのだと思います。

もちろん、このこと自体は、悪いことではありません。以前よりも早く仕事が覚えられるようになったわけですから。

ただ、注意をしなければいけないのは、これはあくまで「一つひとつの作業を、上司の指示に従って的確にこなす」ということについて言えることであって、「仕事の全体像を把握して、自分でマネジメントする能力」を身につけるには、やはり以前と同じぐらい、時間と経験が必要だということです。

指示をされたことは的確にこなすし、ミスも少ない。当然、上司から見ると十分に仕事を覚えたように見える。ところが部下のほうは、個別の作業を何とかこなしているだけで、実は仕事の全体像をまだ把握してはいません。

上司は「これだけ一つひとつの仕事を完璧にこなしているのだから、もう任せても大丈夫だろう」と判断して仕事をどんどん回し、よかれと思って「そろそろ、一人でやってみるか?」と仕事を任せようとする。その結果、問題が起きる。

部下は「自分はまだ半人前なのに、次から次へと仕事を振られたうえに、放ったらかしにされた」と感じてしまうし、上司は上司で「せっかく信頼して仕事を任せたのに、どうしてこんなことに」と失望する……。

これは、やや図式化していますが、おそらく今のビジネスの現場で起きている、少なくない現実ではないかと思うのです。

「全体像を捉える力」が
伸びていかない理由

もちろん、仕事というのは、一つひとつの作業をマニュアル的にこなす、という段階も大事です。誰でもその段階を通らないと、一人前になることはできません。ただ、マニュアル的に仕事をこなしているだけでは、いつまで経っても仕事の全体像を把握することはできないし、全体を任されて、マネジメントする、という段階まで成長することができません。

小学生ぐらいの子を持つ親が、学校でのテストの結果を見て、愕然とすることがあります。

低学年でひらがなや数字を覚え、簡単な計算問題を解いているうちは特に問題なかったのに、小学校の4年生、5年生ぐらいになると、応用問題が何を自分に求めているのかをつかめないせいで、にっちもさっちもいかなくなる段階がくる。

仕事でも同じような「壁」があります。仕事の全体像を俯瞰(ふかん)的に捉えることができるかどうかは大きな壁であり、その壁を越えるには、インターネットで情報収集して上司の指示を聞いているだけでは難しい。一つひとつの作業を覚えるのとは別に、「全体像を把握する」意識を持つことが必要で、その力を伸ばしていかない限り「独り立ち」はできないのです。

では、部下に全体像をつかむ力を身につけてもらうために、上司ができることとは何でしょうか。僕がおすすめするのは、「部下に話をさせる」ということです。

こう言うと「え? 部下からはいつも、報告を受けているし、たくさん話をしていますが?」と思われるかもしれません。でも、上司と部下との会話では、往々にして「上司の話に部下が同意する」という会話パターンを繰り返してしまいがちです。

たとえば「新製品の売上予測」について上司と部下が話すと、だいたいこんなやりとりになるのではないでしょうか。

上司:「前回は、発売1ヵ月でどれくらい売れたんだっけ」
部下:「ええと、○○個ですね」
上司:「そうか。今回は発売1ヵ月で○○個だから、前回の20%増ぐらいは目指せそうだな!」
部下:「そうですね。頑張って売っていきましょう!」

こういう会話をしていると、上司としては、部下が自分と同じくらい状況を把握し、判断しているように思い込んでしまいます。でも、現実には上司の言葉にただ「反応」しているだけであって、自分で考え、判断することはできていない可能性がある。

つまり、「イエス・ノーで答えられるクローズド・クエスチョン」だけでは、部下がどれくらい、仕事の全体像を捉えて話をしているのかがわからないのです。

ご感想はこちら

プロフィール

名越康文
名越康文

精神科医。相愛大学、高野山大学客員教授。専門は思春期精神医学、精神療法。
臨床に携わる一方、TVやラジオ番組でのコメンテーターや映画評論、漫画分析など、さまざまな分野で活躍する精神科医。
近著に『「SOLO TIME」ひとりぼっちこそが最強の生存戦略である」』などがある。

出版をご希望の方へ