一生折れないビジネスメンタルのつくり方

名越康文 劣等感の「コア」を見極めればキャリアの羅針盤が手に入る

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「劣等感をバネに成功する」というのは本当か

失敗をしたり、思うような成果が出なかったりすると、誰しも自信をなくしてしまうことがあります。停滞し、自信を失うあなたを横目にどんどん出世していく同僚の背中を見ているうちに、「自分は仕事ができない人間なんだ」という劣等感がむくむく膨らんでしまう人もいます。

ただ、劣等感というのは、少なくとも長期的な成長、あるいは成功という観点から見たときには、忌み嫌うべきものではありません。なぜなら、成功者の多くは、劣等感を巨大なエネルギーにして、飛躍的な成長をなし遂げた人たちばかりだからです。

版画家の棟方志功(むなかたしこう)氏は、極度の弱視です。そういう人が、日本のゴッホと言われるような作品を数多く残しているという現実があります。ベートーベンは耳が聞こえなかったし、ナポレオンは軍隊イチの小男だったと伝わっています。

映画俳優も、八頭身の美男美女ばかりというわけではありません。チャップリン、トム・クルーズ、アル・パチーノ、ロバート・デ・ニーロ……。彼らは皆、映画俳優としてはかなり小柄です。彼らが劣等感を持っていなかったと考えるほうが難しいでしょう。

「劣等感をバネに成功した」というエピソードは世の中に溢れていて、それはともすると、単なる「お涙頂戴の苦労物語」として消費されてしまいがちです。しかし、劣等感を自身の成長のエネルギーに転換していくために必要なのは、そうした悲壮な努力ではありません。鍵となるのは、もっと冷静で落ち着いた<自己認識>なのです。

自分の劣等感の「中身」を知る

劣等感を成長のエンジンに変えていくための第一歩は、自分が何に対して劣等感を覚えているのか、ということをしっかりと認識することです。実際、劣等感というのは、本人の思い込みによるところも大きいものです。自分が現実に人より劣っているのか、それともただ根拠のない、後ろ向きな思い込みに囚われているだけなのか。

ただ漠然と「自分はダメだ」という劣等感を持っているだけで、それをちゃんと言語化し、認識できていない人というのは案外多いと思います。

まずは、自分が何に対して、どのように劣等感を覚えているのかということをはっきりと捉える。それができれば、成長へのハシゴはすでに掛けられた、といっても過言ではありません。なぜなら、劣等感のありかを突き詰めて腑分けしていけば、いずれ必ず、なんらかの具体的な対象に行き着くからです。

たとえば、漠然と自分の収入に劣等感を覚えている人がいたとしても、その劣等感をつぶさに観察していけば、実は数字として表すことができるような収入額と劣等感には、さしたる関係がない、ということに気がつきます。つまり、年収が1000万円になろうと、2000万円になろうと、それだけでは劣等感は消えないのです。

もっと具体的な「誰か」あるいは「何か」に対する劣等感が、その背景に必ずある。その具体的な対象が見えてくると、自分で解決すべき課題が、まるで夜霧が晴れるように見えてくるのです。

僕の場合で言えば、僕は同じ精神科医として活動している先生方に対して劣等感を覚えることはあまりありません。もちろん、僕よりも優れたお仕事をされている先生がたくさんおられることは言うまでもなく承知しています。しかし、そこに対して劣等感を覚える、ということはあまりない。

一方で、たとえばテレビでバカリズムさんや博多大吉さんのような才能あふれるタレントさんたちが、すごくセンスのいい、切れ味の鋭いコメントをされているのを見ると、無性に劣等感が刺激されることがある。

誤解のないように言っておくと、僕は芸人ではないし、彼らに勝ちたいとか、あんなふうになりたい! と思っているわけじゃありません。ただ、彼らの「センスのよさ」に、僕はどういうわけか、劣等感を覚える。つまりは、ジャンルにかかわらず「センスのよさというものが、おそらく僕の抱えている劣等感のコアにある、ということなんですね。

自分の劣等感のコアをはっきり捉えきれていないうちは、何をしていても、もやもやとした漠然とした劣等感に苦しめられることになります。「なぜ結果が出ないんだろう」「もっと頑張らなきゃいけないのに」「自分には才能がないんじゃないか」「チャンスを逃しているんじゃないか」……。自分が何を求めているのか。その「芯」のところを見極められれば、そういったさまざまなノイズに迷わされることなく、自分が歩みたい方向に、舵を切ることができるようになるんです。

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プロフィール

名越康文
名越康文

精神科医。相愛大学、高野山大学客員教授。専門は思春期精神医学、精神療法。
臨床に携わる一方、TVやラジオ番組でのコメンテーターや映画評論、漫画分析など、さまざまな分野で活躍する精神科医。
近著に『「SOLO TIME」ひとりぼっちこそが最強の生存戦略である」』などがある。

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