一生折れないビジネスメンタルのつくり方

名越康文 真のリーダーは「自分で自分を説得できる」

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「ことなかれ主義」のリーダーは、
実は集注欲求に囚われている?

「組織のリーダーに向いているのはどんな人か」ということは、昔からよく、議論されてきたテーマです。たとえば「決断力こそが、リーダーに求められる資質なのだ」という人もいれば、「部下にきちんと目配りできる人でなければリーダーの資格はない」という人もいます。

日本においてよく問題になるのは、リーダーの地位に立つ人の「ことなかれ主義」でしょう。失敗を恐れ、前例のない新しいテーマに積極的に取り組もうとしない。重要な決断ができず、チャンスを逃してしまう……。日本にはそういうリーダーが多く、そのことが日本の成長を留めてしまっている大きな要因になっている。そんな批判をよく耳にします。

実際の日本のリーダーがそういうメンタリティを持っているかどうかはともかく、心理学的に見ると、こうした「ことなかれ主義」なリーダーに共通する背景は、実は幼稚な「集注欲求」への囚われだったりします。

この連載でも何度か紹介していますが、集注欲求というのは「他人からの注目を集めたい」欲求のことです。生まれたての赤ん坊が、空腹や不快感を訴えるために泣くのと同じように、大人になっても、他人からの関心を惹こうとする欲求が人間にはある。

こうした欲求を未成熟な状態で持ち続けている人が、リーダーになるとどうなるか。普通に考えると、他人の関心を惹くために、何か新しいことをやって目立とうとするのではないか……、と思われるかもしれません。でも、実際の企業では往々にして、集注欲求の強いリーダーほど「ことなかれ主義」になりがちなのです。

なぜなら、集注欲求にとらわれている人にとっては、「他人から賞賛されること」よりもむしろ、「他人から批判を受けたり、非難されたりして、地位を追われることを避ける」という欲求のほうが、ずっと強いからです。

失敗を恐れず、リスクのある新しいことに取り組む決断をする。本気でそういうリーダーを望むのであれば、子供っぽい集注欲求からはある程度解放されていて、他人からの評価に一喜一憂しない人間的成熟が必要だということになるでしょう。

ただ、僕自身はそれにもうひとつ条件を加えたいと思っています。それは「自分で自分を説得できる力があるかどうか」ということです。

まずは自分自身を説得すること

チームの中で、どのようにリーダーシップを発揮するのか。上に立つ人間はどのように振る舞うべきなのか。『アベンジャーズ』や『アイアンマン』『キャプテン・アメリカ』といった、マーベル・シネマティック・ユニバースが作るヒーローものの映画シリーズは、こうしたリーダー論の基本を学ぶための、よい教科書となります。

こうした映画を組織論として観ていて気づくのは、それぞれの映画のヒーローであり、リーダーである主人公たちは、決して自分から望んで「リーダー」になろうとしたわけではない、ということです。アイアンマンにしても、キャプテン・アメリカにしても、他人から請われ、その思いに応えることで、結果としてリーダーとして振る舞っている。

だからこそ、彼らが誰かに指示を出すときには、決して権威的に、一方的に命令を下すことはありません。必ず、情理を尽くして説明し、相手を説得しようとします。

「今はこういう状況で、君にしかこれを頼める人はいない。だから他ならぬ君にお願いするんだ!」と。

映画を観ていると、そうやって情理を尽くして説得する姿勢こそが、当たり前の姿勢に見えます。でも、多くのリーダーは、相手よりも上の立場に立った途端に、この誠実さを忘れてしまうのです。

実際、「上司の命令」というのは一方的であることが多く、また、部下も表面的にはいうことを聞いていても、「これこそが、自分のやるべき仕事だ」というレベルまで、その仕事へのコミットメントが高まっていないことが多いのではないでしょうか。これでは、仕事がうまくいくはずがありません。

部下が納得してコミットメントできるようになるまで、しっかりと説得するのがリーダーの仕事だとすれば、そのために必要なことは何か? それは、説得するためのデータを集めるためでも、相手の反論を封じるような弁論術を磨くことでもありません。「(まずは)リーダー自身が、自分で自分を説得する」ということなんです。

リーダーは自分が納得した具体的なコミットがマスト

他人を説得するために一番必要なこと。それは、「自分自身を説得する」ということです。

たとえば、「●月●日までにこの計画を完成させなければならない」という課題があったとします。このとき、なぜ「●月●日」という期日があるのか、間に合わなければ何が起きるのか、そもそもこの課題は、なぜ達成しなければいけないのか。達成できると、どんなプラスの展開があるのか……。

こうしたさまざまな要素について、リーダー自身が納得いくまで考え、受け入れることができているか。「なぜ、この仕事が必要なのか」ということについて、自分自身が納得できるまで、理解を深めているか。

もし「理解」が自分の心の琴線にまで届き、深い「納得」が生じていれば、自分自身の感情や気分も落ち着き、心の迷いがなくなってきます。そうなって初めて人間は、最高の能力を発揮することができます。自ずと部下を説得する言葉にも、説得力が生じるのです。

たとえば、当座だけを見てみれば自分の部署が貧乏くじを引いてしまうような決断について、部下を説得しなければいけない。そのときに、もしもそのことに自分自身が納得していなければ、とても「全体のために、申し訳ないけれど今は我慢してほしい」と口にすることはできないし、部下の心を動かすことにはつながらないでしょう。

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プロフィール

名越康文
名越康文

精神科医。相愛大学、高野山大学客員教授。専門は思春期精神医学、精神療法。
臨床に携わる一方、TVやラジオ番組でのコメンテーターや映画評論、漫画分析など、さまざまな分野で活躍する精神科医。
近著に『「SOLO TIME」ひとりぼっちこそが最強の生存戦略である」』などがある。

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