一生折れないビジネスメンタルのつくり方

名越康文 「やりたくないこと」からスタートする、本当のキャリアデザイン

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キャリアを「自分で選ぶ」ことはできない

「自分の一番やりたいことを仕事にするには、どうしたらいいか」

仕事やキャリアについて論じた本には、必ず、これに類することが書かれています。「やりたいことを仕事にする」ことが望ましいということについて、僕も総論としては、ほぼ同意します。
同じ働くのであれば、自分のやりたいことをやっている人のほうが日々を明るく過ごせるし、成果も上がる。そういう人が多いほうが、社会全体としてもよい方向に進む可能性が高いでしょう。

ただ、そうやってお題目を掲げたところで、実際に「自分の一番やりたいことを仕事にできている人」がどれくらいいるかというと、どうでしょうか。
多くの人は、日々の生活を維持するためのお金を稼ぐためや、あるいは、配属された場所で、目の前の仕事をなんとなくこなしている……、というのが現実ではないでしょうか。

誤解があってはいけないので申し上げておきますが、「自分のやりたいことを仕事にできていない」こと自体は、別に悪いことではありません。そもそも、どんな仕事でも最初は、「自分のやりたいこと」ではなく、「誰かから頼まれたこと」から始まります。
会社員であれば、上司の指示に従わなければいけないし、フリーランスの仕事だって、クライアントからの依頼がなければ始まりません。

これは一つひとつの仕事だけではなく、就職や転職など、長い時間軸でみたときのキャリアについても、言えることです。自分が「選ぶ」というよりも、他人から「選ばれる」ことによって、キャリアはスタートします。
取引先やお客さんはもちろん、上司からの命令や、同僚、部下からの相談ごとに応えてきたプロセスが、その人のキャリアなんです。

僕の経験を振り返ってみても、たとえば、今やっている雑誌やテレビといったメディアに出てコメントをさせてもらう仕事というのは、結局のところ、誰かしら僕を引き立ててくれる人がいて、そのおかげで仕事をさせてもらっているわけです。

ただ、だからといって、キャリアのすべてを他人任せにしていいかというと、そういうわけでもない、と僕は思います。最初は誰かから命じられた仕事であっても、だんだんとキャリアを積み重ねる中で、自分はこの仕事をやっているんだ、これが一番やりたいことなんだ、と思えるように、主体的に動いていく必要がある。

そのために取り掛かる第一歩こそが、実は、自分の「やりたくないこと」を明確にしておく、ということなのだというのが、僕の考えです。

違和感がその人のキャリアを作る

「やりたいこと」よりも前に「やりたくないこと」を明確にする、というのはどういうことか。それは、日々の仕事の中で「あれ?」「これってちょっと違うんじゃない?」という違和感を大切にする、ということです。

これは「仕事に違和感を覚えたからすぐに辞めろ、転職せよ!」ということではありません。誤解しないでくださいね。むしろ、自分の中に生じた「違和感」を手掛かりに、自分自身や仕事の見識をより深めていく、ということなんです。

仕事をしていて違和感を覚えたときに、そこから逃げるのではなく、自分がなぜ違和感を覚えるのか、どうしたらそれを克服する(あるいは回避する)ことができるのか。そうやって日々の仕事に対してその人なりの適応をしていく。

もちろん、あまりにも肌が合わないとか、パワハラがひどい、と思ったら辞めていいと思います。怠けたいわけでなく、性に合わない仕事を「我慢しろ」「耐えろ」と言う気はさらさらないのです。

ただ、目の前の仕事に対する「違和感」に対して、どうすればそれを軽減できるか、どうすればそれをプラスに転換できるか、ということを考え、仕事に適応していく。そのプロセスから学べることって、すごくたくさんあるんです。

「自分には合わない」と思ったときに、どうやればその仕事をこなせるか、と工夫する。そうすると不思議なことに、段々と「自分とはどんな人間か」「社会とはどんな仕組みで回っているのか」……、ということが見えてくるんですね。

さらに、そうやって自分なりの工夫をしながら仕事をしていると、自然と周囲からの評価も変わってきます。

僕は大学を出てから、公立病院で精神科医をやっていましたが、10年目を過ぎた頃から、メディアからお声がかかるようになりました。それは、ある時期から「あそこの病院にはちょっと変わった医者がいる」ということが認知されるようになったからだと思います。
僕は当時、すごく派手な赤いメガネをかけて診療をしていたんですが、それは別に、反抗しようとか、目立とうとしていたわけではないんです。何か、そういうアイテムを一つ身につけないと、自分が自分でなくってしまうような違和感を覚えていた。その違和感に対する適応として、そういうメガネをかけていただけなんです。

でも、そういうある種の「サイン」を、周囲の人って見ているものなんですよね。その後、独立してクリニックを開いたり、ご縁のあった方に引っ張られてメディアに出るようになったりしたのは、僕が、医者として働く中で感じた違和感を、何らかの形で表現し続けていたからだと思うんです。

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プロフィール

名越康文
名越康文

精神科医。相愛大学、高野山大学客員教授。専門は思春期精神医学、精神療法。
臨床に携わる一方、TVやラジオ番組でのコメンテーターや映画評論、漫画分析など、さまざまな分野で活躍する精神科医。
近著に『「SOLO TIME」ひとりぼっちこそが最強の生存戦略である」』などがある。

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