交渉で「勝つ」ために押さえておくべき3つのこと

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交渉で「勝つ」ために押さえておくべき3つのこと

自分とは意見の違う人と交渉して、イエスと言わせなきゃいけない。
ちょっと想像してみただけでもうんざりする場面です。しかし、実際、私たちの日常は、相手を説得するための交渉事の連続です。それにもかかわらず、交渉に対して苦手意識を持っている人は少なくありません。
そう、われわれ日本人は特に……

一方、欧米の、とりわけエリートと呼ばれている人は、巧みに交渉をこなしているイメージがあります。実際に欧米のエリートと関わったことがない人でも、映画、ニュース、バラエティ番組などで、彼らのスマートな話術がさらりと周囲を引きつけ説得してしまう光景を見たことがあるはず。
なぜ、彼らはそんなことができるのか?
結論から言えば、彼らは人を動かすための伝え方のコツを知っているからです。そのコツこそ「弁論術」と言われる技術です。

弁論術は、今からおよそ2300年前にギリシャの哲学者アリストテレスが最初にまとめ、以後、欧米で連綿と受け継がれ発展してきた伝統ある技術。いわば人を説得する技術の集大成です。
その理論は、金字塔『人を動かす』(D・カーネギー著)や『7つの習慣』(スティーブン・R・コヴィー著)などをはじめとしたビジネス書の名著でも、断片的ながら様々な形で取り上げられ、高く評価されています。

そして、この弁論術の知識こそ、欧米エリートが高校や大学、ビジネススクールなどでの日々のディベートや授業を通じて、徹底的に叩き込まれてきた、彼らのコミュニケーション能力を支える核心なのです。

そこで、本連載では、欧米エリートの常識であり、日本人の非常識、「人類が生み出した最強の伝える技術」である弁論術のエッセンスを伝授します。

人を説得するために気をつけるのは、3つだけ

早速ですが、人を説得するには、まず頭の中に「何に気をつければいいのか」という指針がなければいけません。
多くの人はこれがないために、説得という行為を複雑に考えすぎ、何をすればいいのかわからない状態になっています。これでは、コンパスを持たずにジャングルに入って、勝手にさまよっているようなもの。
ここで、弁論術の開祖であるアリストテレスに登場してもらいましょう。彼は、著書『弁論術』の中で、人を説得するための指針についてハッキリと示してくれています。

「言論を通してわれわれの手で得られる説得には一つの種類がある。すなわち、一つは論者の人柄にかかっている説得であり、いま一つは聴き手の心が或る状態に置かれることによるもの、そしてもう一つは、言論そのものにかかっているもので、言論が証明を与えている、もしくは与えているように見えることから生ずる説得である」

──『弁論術』第一巻第二章(戸塚七郎訳)

より分かりやすく言い換えれば、説得のポイントは、次の3つだということです。

1「話し手の人柄(=エトス)」
2「聞き手の気分(=パトス)」
3「話す内容の正しさ(=ロゴス)」

「話し手の人柄」「聞き手の気分」「話す内容の正しさ」、弁論術において「エトス」「パトス」「ロゴス」と呼ばれるこの3つにさえ気を付ければ、説得は成功する。この考え方は、アリストテレス以来、現代にいたるまで弁論術のスタンダードとなってきたものです。
ただし、この3つの要素について疑問を持つ人もいるかもしれません。
つまり、こうです。

「3の『話す内容の正しさ』さえあればいいんじゃないの?」と。

これは賢い人ほど陥りがちな典型的な誤解なのですが、この「話している内容さえ正しければ説得できる」という考え方は、人を説得するにあたって真っ先に捨てなければいけません。
なぜなら、現実には

「あの人に頼まれると断れないんだよな」

という「話し手の人柄」で成功する説得や

「今日は部長が機嫌がよかったから、提案がさっと通ったよ」

という「聞き手の気分」で成功する説得もまた確かに存在するからです。
しかし、逆に言えば、日常のどんな込み入った説得であっても、意識するのはこの3つだけでいい。
「話し手の人柄」、「聞き手の気分」、「内容の正しさ」。これさえ頭に叩き込んで、ここに向かって語るようにすれば、どんな説得でも迷子になることはありません。

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プロフィール

高橋健太郎
高橋健太郎

横浜生まれ。古典や名著、哲学を題材にとり、独自の視点で執筆活動を続ける。近年は特に弁論と謀略がテーマ。著書に、アリストテレスの弁論術をダイジェストした『アリストテレス 無敵の「弁論術」』(朝日新聞出版)、キケローの弁論術を扱った『言葉を「武器」にする技術』(文響社)、東洋式弁論術の古典『鬼谷子』を解説した『鬼谷子 100%安全圏から、自分より強い者を言葉で動かす技術』(草思社)などがある。

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