欧米エリートが使っている人類最強の伝える技術

交渉のプロが使う、自分を「いい人」に見せる技術

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「いい人」が言うことは「いいこと」と思われる

前回紹介した、人を説得するために気をつけるべき三大要素

「話し手の人柄(=エトス)」
「聞き手の気分(=パトス)」
「話す内容の正しさ(=ロゴス)」

のうち、もっとも強力な武器となる「話し手の人柄」について解説していきましょう(カッコ内は該当するギリシャ語)。

われわれの目から見て、欧米人の説得やスピーチに説得力があるように見えるのは、自己アピールにテレがないから、ということがあります。自分の魅力は堂々と表現する。弁論術的に言えば、「話し手の人柄」による説得力を最大限に利用しているのです。
弁論術の開祖・アリストテレスは、説得の場面における「話し手の人柄」の重要性について、次のように解説しています。

「人柄の優れた人々に対しては、われわれは誰に対するよりも多くの信を、より速やかに置くものなのである」

────『弁論術』第一巻第二章(戸塚七郎訳)

要は、信頼できる人の言うことはそれだけで信頼される、ということです。
これを端的に説明しているのが、オオカミ少年の昔話。
あの話で、少年が「狼が来た!」と言っても信じてもらえなかったのは、彼の発言内容に説得力がなかったからではありません。彼自身が、嘘つきという人柄だったからなのです。仮に彼が正直者だったなら、同じ発言でも信じてもらえたはず。
これに似た事態は、日常でも頻繁に起こっています。
不倫をしているタレントの語るモラル、毎日遅刻している生徒の「明日から遅刻しません!」、無能と評判の社長の経営論、どれもオオカミ少年の「狼が来た!」だから信用されないのです。

そこで問題は、「どうすれば信頼できる人柄だと思ってもらえるのか?」です。
これには、歴代の賢人・達人たちによっていくつかの説が提示されています。
例えば、アリストテレスは、「徳、聴衆への好意、フロネシス(≒現実対応力)の三つをアピールしろ」と言っていますし、英雄カエサルのライバルだった古代ローマの大弁論家キケローは、「品格、功績、評判の三つが大事だ」と言っています。
ただ、ややこしいことを抜きにして、結局のところを言えば、アリストテレスとキケローの意見を合体させた次の三つに尽きるでしょう。

  1. 性格の立派さ
  2. 聞き手への好意
  3. 話し手の実績

この三つが話し手にあるとき、聞き手はあなたのことを不思議と信頼し、受け入れてくれます。時には、話の内容が正しくなくてもです。このとき、聞き手の印象をよくしたい、聞き手を味方につけたいなどとぼんやり考えていてもダメ。具体的にこの三つのポイントだけを集中的に意識することが大事です。
今回は、この三つについて、その基本的な部分を解説しておきます。

問題は性格が実際に立派かどうかではない

では、まず話し手に信頼される「性格の立派さ」とはなにか?
ここで勘違いしてはいけないのは、これが道徳の話ではないということです。つまり、どういう人間が立派なのか? 自分は実際に立派な人間なのか? そんなことはどうでもいい。
人を説得する上で大事なことは、ただ一つ。

「どうふるまえば、聞き手に立派な性格だと思われるか?」

です。大切なのは聞き手に合わせること。優しい人が好まれる場では、優しい人を演じ、論理的な人が好まれる場では論理的な人を演じる。極端なことをいえば、悪人サークルで悪人を説得するのなら、立派な悪人を演じて信頼されることが大事なのです。
この「聞き手に合わせる」というのは、説得する際において大切なキーワードになりますので、頭に叩き込んでおきましょう。聞き手をよく観察し、持ち出す根拠、感情のあおり方、表現、すべてを聞き手に合わせてチューニングする。それが、人類が生んだ説得の叡智である「弁論術」の基礎なのです。
当然「性格の立派さ」についても、説得する側の考える「立派さ」ではなく、聞き手をよく観察し、聞き手の好む「立派さ」をアピールすることが重要です。

現代の経営者やタレントといった世間を相手にするプロがとくに気にしているのが、まさにこの「性格の立派さ」という要素です。彼らは、インタビュー、会見、SNSなどで、常に、善良さ、挑戦する勇気、度量の広さ、思慮深さなど世間の求める「性格の立派さ」を感じさせるようにしています。言うまでもなく、自分の言葉に説得力を持たせ、周囲への影響力を高めておくため。
彼らは、たとえどんなに破天荒なキャラクターを演じていても、「実は真面目」「実は誠実」「実はやさしい」というように、どこかで立派なイメージを確保しているもの。それがないと誰も話を聞いてくれなくなるからです。

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プロフィール

高橋健太郎
高橋健太郎

横浜生まれ。古典や名著、哲学を題材にとり、独自の視点で執筆活動を続ける。近年は特に弁論と謀略がテーマ。著書に、アリストテレスの弁論術をダイジェストした『アリストテレス 無敵の「弁論術」』(朝日新聞出版)、キケローの弁論術を扱った『言葉を「武器」にする技術』(文響社)、東洋式弁論術の古典『鬼谷子』を解説した『鬼谷子 100%安全圏から、自分より強い者を言葉で動かす技術』(草思社)などがある。

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