欧米エリートが使っている人類最強の伝える技術

交渉上手は相手の「喜怒哀楽」を驚くほど巧みに利用する

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どんなに理性的な人でも、気分によって判断は変化する?

今回は、人を説得するために気をつけるべき三要素のうち「聞き手の気分(=パトス)」について解説していきます。
弁論術では、必要とあらば、聞き手の気分や感情を積極的にコントロールし、説得に結びつけます。

人間の判断は気分に束縛されています。
例えば、機嫌のいいときと悪いときで、完全に同じ判断などできないのです。どんなに理性的に見える人間でも事情は同じ。だからこそ、他人を説得する際に「聞き手の気分」というものは絶対に無視できません。
「論理思考」「エビデンス思考」「理系思考」といった言葉が飛び交い、「気分」のような曖昧なものが軽く見られがちな現代のビジネスシーンでは意外かもしれませんが、実際のところ、海外でも理性的なエリートほど「聞き手の気分」を直視し、時には自ら感情的に振る舞い、それを巧みに利用しています。

その一番分かりやすい例が、ドナルド・トランプ現アメリカ大統領です(彼が「エリート」なのかどうかは評価が分かれるかもしれませんが)。
過激な発言やパフォーマンスのイメージが強く、彼を持ち上げるのは賛否が分かれるとは思うのですが、彼がビジネスマンとして成功し、大統領選に勝ち、現在でも根強い支持があるのはまぎれもない事実です。
彼が支持され続けているのには様々な要素が考えられますが、弁論術の観点から確かに言えることがあります。それは、彼が聞き手の気分を巧みにコントロールしているということです。

彼の話すことには大きな特徴があります。それが、どんな話題でも明確な「敵」を作り、それに対する恐れや不安、怒りをあおること。
移民、テロ支援国家、貿易相手国。これらの「敵」がいかにアメリカ国民の生活を脅かす「悪い奴ら」なのかを、聞き手(とくに現に生活に困っている層)に向かって繰り返し説いているのです。こうして、「敵」への恐れ、不安、怒りをあおり、その感情のはけ口として自分への支持や自分の政策を提示する。すると、話を聞いてる側は「この恐れ、不安、怒りを解消してくれるのは、彼しかいない!」となってしまうのです。
極端な例ではありますが、彼の聞き手の気分に訴える語り口がとても効果的なのは、間違いありません。

では、肝心の話題に移りましょう。どうすれば、聞き手の気分をあおり、こちらの望む結論や行動に結びつけられるのか?
結論から言えば、押さえておくべきは次の三点です。

  1. 話にリアリティを持たせる
  2. 率先して感情的になる
  3. 感情の「はけ口」を指定する

この三つさえ押さえれば、確実に聞き手の気分や感情をあおり、こちらの望む結論や行動に誘導することができます。今回は、この三つについて基本的な事柄を押さえていきましょう。

話に「リアリティ」を持たせる

例えば、あなたが会社の企画会議で、ある斬新な商品企画をプレゼンしていたとします。この企画は、定番商品に頼り切ってジリ貧になりつつある会社を救うための、あなたなりの窮余の一策ですが、カタい社風の中では異例のものでもあります。
それだけに、危機感の足りない上司・先輩たちの焦りや不安といった感情をあおらなければ、うまくいきそうにありません
そのための方法はいくつも考えられますが、ここでは、定番商品がすでに顧客に飽きられているという事実を突きつけて、焦り、不安、悔しさをあおることにします。
では、具体的にはどうすれば?

人間はなにかを聞いたとき、目の前で行われているようなリアリティ、生々しさを感じれば感じるほど気分や感情を動かされます。
このリアリティと生々しさこそ、人の気分をあおる際に絶対に必要な成分なのです。それを相手に印象づけるために簡単な方法があります。
企画会議の参加者に、顧客の生の声を直接見せてしまえばいいのです。生の声ほど、リアリティと生々しさのあるものはないからです。

例えば、SNS、ネット記事、雑誌記事などに書かれた競合他社の斬新な商品への称賛の声をプリントアウトして配る。あわせて、自社商品への酷評の声があれば、それもぜひとも見せる。さらには、競合他社との業績比較の数字やグラフなどを添付すれば、さらに聞き手の不安や焦り、悔しさをあおるのに効果的でしょう。

細かいところを言えば、SNSの投稿やネット・雑誌の記事を見せるときは、自分で文面を打ち直したものではなく、画面をそのままプリントアウトしたものがベスト。また、手書きのアンケートなどを見せるのであれば、筆跡がそのままわかる実物のコピーを見せましょう。そちらの方がより強いリアリティと生々しさを感じさせるからです。
ただし、リアリティのある材料を示せばそれだけで感情をあおることができるというわけではありません。次に大事なのは、それを使った語り方です。

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プロフィール

高橋健太郎
高橋健太郎

横浜生まれ。古典や名著、哲学を題材にとり、独自の視点で執筆活動を続ける。近年は特に弁論と謀略がテーマ。著書に、アリストテレスの弁論術をダイジェストした『アリストテレス 無敵の「弁論術」』(朝日新聞出版)、キケローの弁論術を扱った『言葉を「武器」にする技術』(文響社)、東洋式弁論術の古典『鬼谷子』を解説した『鬼谷子 100%安全圏から、自分より強い者を言葉で動かす技術』(草思社)などがある。

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