「説明が下手」な人が見落としている、ちょっとしたポイント

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説明下手の根本的な原因とは?

誰かに自分のアイデアを説明する、お客さんに商品を説明する、遅刻の理由を説明する、旅行で見聞きしたことを説明する。

こうした説明の場面で、話がうまく伝わらなくて困ったことはありませんか? もしかしたら「自分は説明がうまくできない」と苦手意識を持っている方も多いかもしれません。

説明がうまくいかない理由には様々なものがあるでしょう。相手の知らない単語を使っている、聞き取りづらい話し方をしている、説明の構成がまずい、などなど。これらの問題を解決するテクニックについては、すでに多くの本や記事が書かれたりしています。ここで本連載が何か付け加えることもないでしょう。

本連載ではもっと根本的なコツをお話ししたいと思います。このコツさえ押さえれば、それだけで説明は自然と分かりやすく変わります。

最も分かりやすい説明とは何か?

考えてみましょう。最も分かりやすい説明とは何か?

例えば、自分が最近買った自動車がどんなものかを他人に説明したいとします。どう言えば最も伝わりやすいと思いますか?

車種を伝えて、ボディの色を説明して、オートマチックで、席は何列で、排気量は……。

このように要素を次々と挙げていくというのはやりがちですが、誰にでも伝わる説明という点からはベストとは言えません。聞き手自身の知識と想像力にかなりの部分を委ねてしまっているからです。

では、ベストな説明とは何か? こう言っては元も子もありませんが、結局、実際に現物を見せることなのです。

ただし当然ながら、説明のたびに毎回現物を見せるわけにはいきません。だからこそ、実際のプレゼンの現場では、アイデアや企画を説明する際に、現物の代わりとなる豊富な画像・動画・ミニチュアなどが駆使されるわけです。

しかし問題は、そうしたものが利用できず、言葉だけで物事を説明しなければならない時です。

とにかく感覚的に伝わるように説明する

では、どういう言い方をすれば、言葉だけで現物を見せるのに近い効果を出すことができるようになるのか?

ここで、正しいけれど伝わらない説明の仕方を見てみましょう。

「赤ってどんな色?」
「JIS規格で言うと色相5Rで、明度4、彩度14のものだね」

これは著者が今Wikipediaの「赤」の項目を見て作った例文ですが、これではなんにも分かりません。著者も分かりません。多分、定義としては正しいのでしょうが、こういうことに詳しい人間以外にはまったくピンとこない説明でしょう。

言葉の上だけでの定義になっていて、多くの人にとって感覚的に分からない情報になっているからです。そうではなく、「赤」という色を説明したければ、「赤が現物としてどう存在しているのか?」という視点を持ち、それを表現に落とし込むと、ずっと伝わりやすくなります。次のように。

「赤ってどんな色?」
「信号の右端にある色だよ。神社の鳥居とか郵便ポストのあの色だよ」

説明の際には、このように「それが現物としてどう存在しているのか?」を意識することが肝心です。

例えば「カンガルーってなに?」と聞かれたら、生物学的な定義を言い募るより「オーストラリアでぴょんぴょん跳ねてるアレだよ」と答えたほうが伝わりやすく、「日本の政府ってなに?」と聞かれたら、教科書の一文を引くよりも「国会中継で質問に答えている人たち」と言ったほうが多くの人にとってピンと来ます。「民主主義ってなに?」と聞かれたら、「君たちが選挙で政治家を選ぶことができること」と答えれば、子供でも理解できるでしょう。

「それが現物としてどう存在しているのか?」を意識して説明することで、聞き手はその物事を、頭ではなく感覚でとらえることができるようになります。ギリシャ・ローマ式弁論術では、この感覚に訴える技法を「現前化」と呼び、法廷や議会で多用してきました。

ただし、「現前化」には一つだけ注意が必要です。伝わりやすくなる一方、厳密さが犠牲になるのです。

先の例で挙げた「赤」で考えてみても、「信号の右端にある色」は厳密な意味での赤ではないかもしれませんし、鳥居の色だって、赤ではなく橙色っぽく塗ってある神社もあります。「郵便ポスト」も赤とは限りません。実際、横浜の元町には、黒の郵便ポストがあるのです。

ただ、このような厳密さに関する副作用さえ自覚できていれば、ここまで見てきた「現前化」のテクニックは非常に有効なものになります。普段の説明の場面では、まずは「いかに伝わるか」こそが第一優先だからです。そして、より厳密な説明を相手が求めてきたら、そこではじめて説明の抽象度を上げていく。そのくらいでちょうどいいのです。

ちなみに、「それが現物としてどう存在しているのか?」を意識したほうが伝わるのは、仕事などで扱う「数字」でも同様です。「三分」より「カップラーメン作るぐらいの時間」、「二メートル」より「男の人の背丈よりちょっと大きい」、「2億円」より「サラリーマンの生涯年収」などと表現したほうが、とくに相手が数字に慣れていない場合などは、より伝わるようになります。

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プロフィール

高橋健太郎
高橋健太郎

横浜生まれ。古典や名著、哲学を題材にとり、独自の視点で執筆活動を続ける。近年は特に弁論と謀略がテーマ。著書に、アリストテレスの弁論術をダイジェストした『アリストテレス 無敵の「弁論術」』(朝日新聞出版)、キケローの弁論術を扱った『言葉を「武器」にする技術』(文響社)、東洋式弁論術の古典『鬼谷子』を解説した『鬼谷子 100%安全圏から、自分より強い者を言葉で動かす技術』(草思社)などがある。

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