欧米エリートが使っている人類最強の伝える技術

あなたもコロッとダマされる? 「フェイク議論」の怖い仕組み

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気づかないうち騙される「詭弁」の仕組み

ベテランの行う営業トーク、イケイケの人物が行うスピーチやプレゼン、インフルエンサーのネットでの発言。その言葉にその場では同意し納得しながらも、後で

「今、考えるとどうもヘンだ」

と、感じたことはないでしょうか? それは、もしかしたら「詭弁(きべん)」を使って騙されたのかもしれません。「詭弁」とは、言い方・話し方の工夫で正しくない内容を正しいように見せかける、いわば「フェイク議論」を組み立てるためのテクニックのこと。

この「詭弁」は、古代ギリシャにまでさかのぼる歴史の古いものですが、現代でも様々な場面で、気づかないうちに我々を扇動し説得し、動かしています。

そこで今回は「詭弁」について解説します。騙されないために、そして自分で知らず知らずに使わないためにです。

「詭弁」は古代ギリシャからあった

そもそも、本連載が参照している弁論術という技術。弁論術の祖・アリストテレスがこの技術を説いた大きな動機の一つが、詭弁への対抗策を示すということでした。

というのも、当時のギリシャには、「徳を身につけさせる」「知識を教授する」という触れ込みで人を集めて金をとるソフィストという人々が跋扈(ばっこ)しており、彼らのほとんどは、適当な内容を「詭弁」で正しそうに見せかけるだけの悪質なエセ知識人だったからです。

アリストテレスは、彼らソフィストを「知恵に見えるが本当はそうでないもので金銭を稼ぐもの」(『ソフィスト的論駁』第一章)と呼んで軽蔑していましたが、ハッキリ言えば、この手のソフィストは今でもたくさんいます。

役に立たない考え方を成功への近道のように宣伝する人、しょうもないデマを画期的な新知識であるかのように拡散する人、自分の利益のために奇妙な論理で他人をだます人は、今でもそこら中にいるのです。

では、現代のソフィストたちが用いているのはどんな詭弁なのか?

おそらく、もっともよく使われているものの一つが、原因と結果についての詭弁でしょう。これは、様々なメディアの記事やSNSの投稿などでうんざりするほど見られます。

原因と結果についての詭弁については、さしあたり主な四つのパターンを押さえておくことが大事。これだけでかなり、詭弁に騙されたり、あるいは自分で気がつかないうちに詭弁を用いてしまうケースも減るでしょう。

1、数ある原因の一つを唯一の原因のように語る

まず一つ目が、数ある原因の一つを唯一の原因であるかのように語る詭弁。これは他人を操ったり扇動しようとする人間の常とう手段です。例えば、次のような。

「彼が事業に成功したのは、英語が堪能だったからです。英語の勉強をしましょう!」

まず絶対に知っておいてほしいのが、現実は複雑で、物事の原因は複数あることの方が多いということです。例で言えば、彼が事業に成功したのは「英語」のおかげだけではないはずなのですし、トランプ大統領は、

「アメリカ中西部や南部が貧困化したのは、不法移民が仕事を奪ったせいだ。追い出そう!」

と言いますが、アメリカ中西部や南部の貧困化は、工場などの働き口が海外に移転したことや、若者が都会に流出したこと、それまでの歴史的な経緯なども強い原因だと言われていて、それをすべて「不法移民のせいだ!」ですますのは、どう考えても詭弁なのです。

良識ある人間は、複雑な出来事について安易に「全部アレのせいだ!」などとは断言しません。それが誠実な態度ではないことが分かっているからです。

そして、そんな状況だからこそ、ソフィストは「全部アレのせいだ!」と断言します。多くの人間が、複雑な事実より単純な詭弁を好むことを知っているからです。

誰もが原因を断言できないモヤモヤした雰囲気の中で、簡単に理解できる「全部アレのせいだ!」が出たとたん、「わかりやすい!」「それがホントにちがいない!」と諸手を挙げて歓迎してしまうのが、大衆というものなのです。

しかし、この記事を時間を割いて読んでくださる皆さんは、そんな大衆ではないはずです。

ならば、複雑な出来事の原因を、ただ一つの何かに帰するような主張を目にしたら、それに飛びつく前に「原因がそれだけって本当か?」と反射的に疑うクセをつけましょう。

2、まったくの偶然を原因だと語る

二つ目は、原因でないものを原因とする詭弁です。これは、アリストテレスも『弁論術』で取り上げている古い詭弁です。次のような。 

「今日悪いことが起きたのは、朝、玄関を出るときに右足から歩き始めたからだ」

世の中には、このように「偶然」という言葉で処理すべき事柄を、必然のように語る詭弁が確かに存在します。

言うまでもありませんが、「AのあとにBが起こった」からと言って「AのせいでBが起こった」とは限らないのです。もちろん、大の大人が真面目な議論をする時にこういう話し方をするのはナシですし、これに騙されるのはもっとナシ。

ちなみに、アリストテレスはこの詭弁について「政治の世界に顕著」(『弁論術』第二巻第二十四章)だと言っています。

彼によれば、ギリシャでデモステネスという人物がある政策を行った後に、たまたま戦争が起きた際、当時の敵対する政治家はその政策と戦争に関連がなかろうが、すかさずこう言ったそうです。

「戦争が起きたのは、デモステネスの行った政策が原因だ!」

この手の詭弁は、現代の政治の世界でも頻繁に耳にするものです。

繰り返しになりますが、「AのあとにBが起こった」からと言って「AのせいでBが起こった」とは限りません。大事なのは、AがどんなメカニズムでBの原因になったといえるのか? なのです。

ここがハッキリしない限り、その意見を信用してはいけません。

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プロフィール

高橋健太郎
高橋健太郎

横浜生まれ。古典や名著、哲学を題材にとり、独自の視点で執筆活動を続ける。近年は特に弁論と謀略がテーマ。著書に、アリストテレスの弁論術をダイジェストした『アリストテレス 無敵の「弁論術」』(朝日新聞出版)、キケローの弁論術を扱った『言葉を「武器」にする技術』(文響社)、東洋式弁論術の古典『鬼谷子』を解説した『鬼谷子 100%安全圏から、自分より強い者を言葉で動かす技術』(草思社)などがある。

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