戦争アニメの「未知の伸びしろ」 藤津亮太『アニメと戦争』

2021.06.03 WEDGE Infinity

 日本は世界最大のアニメ生産国である。2019年の総売上げは10年連続増加の約2兆5000億円、うち半分が海外市場だ。

 その巨大なアニメ業界において、アジア太平洋戦争当時からの戦争アニメに着目し、作品を歴史的に分析したのが本書である。

 ただし、著者の藤津亮太さんによれば、厳密には戦争アニメと称されるジャンルは存在しない。

 ロボット・アニメという大きな流れがあり、その中で軍隊などによる組織的な戦闘を扱った作品群を、今回あえて「戦争アニメ」と括り、その描写や物語の変遷に迫ったのだ。

 「戦争アニメに興味を持った契機は?」

 「小学3年生で、劇場版『さらば宇宙戦艦ヤマトー愛の戦士たちー』(1978年)を見たんです。主人公古代進とヤマトが特攻する悲壮美にすっかり酔い、アニメ・ファンになりました。でも、ずっと引っかかっていたんですね。戦争ごっこの魅惑と本当の戦争のバランスをどう考えたらいいのか、と」

 それまでの漫画映画がアニメと呼ばれるようになり、最初のアニメ・ブームが起こったのは1970年代後半から80年代初頭。68年生まれの藤津さんが小・中学生の時代で、藤津さんはその影響を全身に浴びた。

 「『機動戦士ガンダム』(79年)が好例ですけど、戦争を扱ったロボット・アニメは、発想も内容もとても自由でした。スポンサーの玩具販売さえ促進すれば、作品はどう作っても良い。それで富野由悠季さんなど、多くの優れた作り手が育ったんですね」

 戦争を扱ったロボット・アニメには、佳作・秀作の集まる一大潮流が形成されたのである。

 「潮流の方向性と位置を示すのに、独自の散布図を使用していますね?」

 「そう、その図は苦労したんです(笑)」

 120ページの図は、平面を直交する2直線で分け、4つのゾーンに区分している。縦軸は下の「歴史的」から上の「非歴史的」へ。横軸は左の「集団の体験」から右の「個人の体験」へ。できた4つのゾーンに、本書で取り上げた22作品を、内容ごとに分けて配置した。

 「これを見ると、日本軍の蘭印作戦を下敷きにした戦中の『桃太郎 海の新兵』(45年)が左下の“歴史的/集団体験”ゾーンで、そこから『ヤマト』『ガンダム』を経て、女子高生がスポーツ化した戦車戦を戦うという、萌えミリ(美少女+ミリタリー要素)の『ガールズ&パンツァー』(2012年)まで、“非歴史的/個人体験”ゾーンの右上へと向かう変遷がよく分かりますね」

 「ええ。戦争体験が証言から記憶の時代になりサブカルチャー化するわけですが、その過程で1930年生まれの少国民世代が大きな役割を果たします。子ども時代に戦争を見聞きした彼らは、長じて作り手側になると、戦争に対する距離感が人によって違ってきます」

 『宇宙戦艦ヤマト』では、プロデューサー西崎義展氏とキャラクターデザインの松本零士氏(共に小国民世代)の分裂が知られている。

 西崎氏は「日本的な普遍性」を込めてヤマトに戦艦大和を重ねようとした。一方、戦後民主主義派の松本氏はヤマトと大和を切り離し、新たな宇宙大航海物語を志向した。

 「でも私は『ヤマト』の場合、作り手の小国民世代の分裂と葛藤があったおかげで、戦争ごっこの作品としての内容が深まり、見る子どもたちを熱中させたと思います」

 『ヤマト』のエンタメ的成功が、次の『ガンダム』や『ガルパン』の登場につながったのだ。

『風立ちぬ』と『この世界の片隅に』

 藤津さんは、最後の第10章でロボット・アニメの流れから離れ、アジア・太平洋戦争を「歴史的/個人体験」ゾーン描いた宮崎駿監督の『風立ちぬ』(2013年)と片淵須直監督の『この世界の片隅に』(16年)の2作品を取り上げている。