就職氷河期はメンバーシップ型雇用が生んだのか 労働政策研究・研修機構労働政策研究所長 濱口桂一郎氏インタビュー

2021.08.05 WEDGE Infinity

 65歳以上の高齢者人口がピークを迎える2040年、就職氷河期世代の一部が高齢者になると、社会保障費が一気に膨らむ可能性が高い。就職氷河期世代には、非正規で働く人も多く、一定程度の年齢から正規雇用されても同世代に比べ収入が低いため、年金の受給額や貯蓄額が少ないためだ。だが、就職氷河期世代について正規雇用されている人たちの関心はあまりにも低い。まさに当事者である筆者はそう思うことがよくある。

 就職氷河期世代とは内閣官房就職支援推進室によれば、1993年~2004年に高校や大学を卒業し、不安定な職に就いている人たち。その数は100万人近いとも言われている。

 就職氷河期は日本の雇用の構造が生んだのではないか。そんな疑問を持ちながら、独立行政法人労働政策研究・研修機構労働政策研究所長の濱口桂一郎氏に、日本の雇用制度、就職氷河期は日本の雇用制度が生んだのか、就職氷河期の自己責任論などについて話を聞いた。

(Blue Planet Studio/gettyimages)

── 経済誌などでは、いよいよ日本でもジョブ型雇用の導入かといったテーマの記事を最近見かけます。ただ、以前より濱口先生が提唱されている、メンバーシップ型とジョブ型という説明と違うなと違和感を覚えるのですが、あらためてメンバーシップ型とジョブ型について説明していただけますか?

濱口 メンバーシップ型やジョブ型という言葉を提唱したと言われるのですが、私は事実を叙述し、名付けたまでにすぎません。それ以前から日本は就職ではなく「就社」などと言われたり、概ね似たような概念は多くの労働経済学者たちが考えていました。

 日本の雇用の特徴として、終身雇用や年功序列、新卒一括採用が挙げられます。しかし、それらはただの現象に過ぎないのです。現象だけを見れば、ヨーロッパも日本と同じように一社にいる勤続年数は長い。アメリカが突出して短いだけです。それをもって「日本とヨーロッパは変わらないんだ」という人がいますが、それは現象に囚われているだけです。そうした現象ではなく、欧米と日本の雇用システムには根本的な違いがあるわけです。

 それがジョブ型とメンバーシップ型です。ジョブ型とは、あらかじめジョブ、すなわち職務(仕事)があり、そのジョブに合致する人を採用し、そのジョブに従事させる。ですから、たとえばあるジョブに欠員などが出た際、企業はそのジョブに従事する能力を持った人をその都度募集するわけです。

 一方のメンバーシップ型は、まずは人がありきで、その人に仕事を当てはめていくわけです。実際に労働者が従事するのは個別のジョブですが、ジョブの定めのない採用を行っている。そして企業内でさまざまなジョブに従事させるわけです。つまり、就職とは「職」、つまり「ジョブ」に就くことではなく、会社の一員(メンバー)になることなのです。しかし、日本の法律はジョブ型を前提として作られています。

── どういうことでしょうか?

濱口 まず社員という言葉そのものが法律と齟齬があります。一般的に会社で働いている人を社員と言いますね。社員とは、英語でいうと「エンプロイー」、すなわち雇用されている人のことを指します。しかし法律上、社員とは会社にお金を出している人のことを指します。株式会社ならば株主が社員で、会社のメンバーです。

── なぜ、法律と実態がかけ離れているのでしょうか?

濱口 大枠を言うならば戦前の雇用統制や賃金統制があり、戦後の労働運動が戦時中の雇用統制や賃金統制をそのまま受け継ぐ形を企業に対し要求してきたためです。

── もともと我々の社員という言葉の理解そのものが間違っているわけですね。日本では、欧米に比較し、解雇についても厳しい規制があります。