米国の北京五輪で“外交ボイコット”板挟みの日本

2021.11.29 WEDGE Infinity

 米国のバイデン大統領が来年2月に迫った北京冬季五輪の?外交的ボイコット?を検討している。日本政府は、同調を求められる可能性が強いとあって困惑、戸惑いを隠せない。

 米国の顔を立てれば日中関係は再び悪化する。それを嫌って対中関係を優先させれば日米関係の軋轢は免れない。欧米と中国との板挟みにあった天安門事件直後の?悪夢?を彷彿とさせる。

 中国政府高官から性的関係を求められたと告発した女子テニス選手が消息不明と伝えられる問題も米政府の態度を硬化させている。日本政府としては、アメリカが穏便な手段をとることをひたすら祈りたい心境だろう。

(新華社/アフロ)

米国、以前からボイコット検討

 バイデン大統領の発言は11月18日。カナダのトルドー首相との写真撮影の席で、記者団から「北京五輪の外交ボイコットを支持するか」と聞かれ、「それは、われわれが考慮していることだ」と、明確に認めた。

 大統領の発言は、わずかにその一言にとどまったが、バイデン氏自身がこの問題に触れるのははじめて。しかも、習近平国家主席とのオンライン会談の翌日というタイミングもあって、?あてつけ?の印象を与えた。

 北京五輪の外交ボイコットについては、米国内では早い時期からとりざたされてきた。

 春先に国務省のプライス報道官は「北京の目に余る人権侵害、新疆でのジェノサイド(集団殺害)について、インパクトのある行動をとるよう同盟国と協議している。北京五輪も協議を続けるべき問題だ」(2021年4月6日の定例記者会見)と述べ、検討が始まっていることを明らかにした。

 この時はホワイトハウスのサキ報道官が、「(北京五輪への)われわれの方針は不変だ。同盟国と話し合ったこともない」と翌日、軌道修正したが、政府内で検討されているのは既定事実と受け取られている。

 米、英、カナダと欧州連合(EU)は21年3月に、新疆ウィグル自治区当局者の資産を凍結するなどの制裁を発動した。EUが制裁に加わったことによって主要7カ国首脳会議(G7)参加国では日本だけが同調を避けた格好になっている。

テニス選手失踪事件も影響

 ウィグルの人権状況に改善が全くみられないなかで、表ざたになったのが、元副首相から性的関係を強要されたと告発した女子テニス選手、彭帥さんが消息不明になった事件だ。

 この問題については、日本のメディアでも詳細に報じられているので重複は避けるが、中国側は彭選手が国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長とテレビ会談する映像を公開、「政治問題化しないよう求める」 (外務省の趙立堅報道官)と沈静化に躍起だ。

 しかし、ホワイトハウスのサキ報道官は今月19日、「深刻な懸念」を表明し、その所在について「独立した検証可能な証拠を示してほしい」(11月19日の記者会見)と要求した。英国など欧州各国も同調、日本の林芳正外相も懸念を表明している。

日本、対中制裁では過去も慎重

 バイデン大統領による「外交ボイコット」発言を受けての岸田文雄首相は歯切れが悪く、明確さを欠いた。

 首相はバイデン発言の翌日、「それぞれの国で立場や考えがある。日本は日本の立場で考える」、「国益をしっかり考えながら判断していく」と述べるにとどめた。松野博一官房長官も「日本の考えはまだ決まっていない」と述べたが、いずれも苦しい胸の内が伝わってくるようだ。

 こと中国への強硬手段となると、日本は欧米各国と簡単に歩調を合わせることのできない事情を抱える。過去にも苦しい思いをした経験がある。

 1989年6月4日の天安門事件がそれだ。

 米国、欧州は、各国歩調による強い共同制裁を主張したが、日本はこれに同調するのを避けた。