正義感に燃えた投稿も違法行為に!「ラウンドアップ誹謗中傷訴訟」でSNS投稿者に賠償命令、虚偽情報の“拡散”は止められるか

2025.09.04 Wedge ONLINE

 除草剤「ラウンドアップ」への誹謗中傷をSNSなどで行った複数の投稿者を相手取り、同製品を製造・販売する日産化学(東京)が東京地方裁判所へ起こしていた損害賠償請求訴訟で、同地裁は「企業への名誉・信用棄損にあたる」として賠償金の支払いを命じる判決を下した。市場で流通する一製品に対する匿名の誹謗中傷に対して、司法が「不法行為に基づく損害賠償請求」を認めたことは極めて珍しい。この判決が今後、安易な虚偽情報の発信にどこまで抑止力を示すか注目される。

(valio84sl/gettyimages)

「農家を守るため」の訴訟

 除草剤のラウンドアップ(有効成分名グリホサート)は、1974年に米国の旧モンサント社(現在はドイツのバイエル社)が開発した除草剤。日本では80年に農薬として登録された。2002年から、日本での販売権を譲り受けた日産化学が販売し始め、農業用のほか、ホームセンターなどで「ラウンドアップ®マックスロードシリーズ」として売られている。

 15年、「国際がん研究機関」(IARC)がグリホサートを発がん性分類で「グループ2A」(おそらく発がん性あり)」(筆者注・この分類はリスクの強さの分類ではなく、証拠の強さまたは危害を生む可能性の分類)に分類したことから、米国で訴訟が起き、SNSでラウンドアップに対する根拠のない情報があふれるようになった。日本の内閣府食品安全委員会をはじめ、欧米の公的評価機関は「発がん性はない」との見解を示したにもかかわらず、「がんを起こす」「自閉症の原因だ」「ベトナム戦争で使われた枯れ葉剤と同じ」といった誹謗中傷が絶えなかった。

 こうした根拠なき記事に対し、日産化学は訂正を求める活動を行い、それなりに成果を収めてきたが、誰でも投稿できるSNSの世界では警告や削除要請では効果は上がらなかった。

 このため、3月下旬、再三の警告にもかかわらず、削除に応じなかった複数の投稿者を相手取り、損害賠償を求める訴訟を起こした。

 訴訟の根拠は、民法709条に基づく「不法行為による損害賠償請求」。ある企業の商品が危険でもないのに、極めて危険な薬剤であるかのように拡散・喧伝されることによって、その会社の信用と商品が大きく毀損されたというのが訴訟の理由だ。

 訴訟の背景には、ラウンドアップを使う農業生産者から「農家がデマと戦っているのにメーカーはなかなか動いてくれない。ユーザーのことをもっと考えてほしい。断固たる措置を期待したい」といった声が多くあったことも挙げられる。こうした声を受け、「農家を守るためにもメーカーが前面に出て毅然と対応しなければいけない」と訴訟を決意したという。

被告は謝罪・反省

 被告投稿者は複数で50代~70代の一般人。激論が交わされるのではと予想したが、被告が裁判所に出頭して意見を言うことは一度もなく、反論することもなかった。多くは「良く確かめず、軽率だった」と反省・謝罪し、和解を申し出た。

 一方、反論はしなかったものの、和解金が高いことに納得しなかった投稿者は最後まで争った。しかし、7月半ばに東京地裁は「科学的根拠に基づかない虚偽情報を発信し、企業と製品の信用・名誉を毀損した」として賠償金の支払いを命じる判決を下した。

日産化学農業化学品事業部ラウンドアップ営業部が運営するSNSでも、判決を伝えている

 被告は控訴せずに賠償金を支払い、判決が確定したことを8月27日、日産化学はホームページで公表した。

論点を3つにしぼる

 日産化学が勝訴した理由は、誰が見ても明らかに間違っている主に3つの虚偽事実にしぼって争ったことが挙げられる。その3つは「ラウンドアップは世界中で発売禁止になっている」「ベトナム戦争で使用された枯葉剤と同じだ」「ラウンドアップによって日本の国土が汚染されている」だ。