満州事変の発端となった柳条湖事件から94年を迎えた9月18日、中国遼寧省瀋陽市にある「九・一八歴史博物館」前で式典が行われた。中国中央テレビ(CCTV)の報道によると、式典には習近平国家主席など中国共産党の最高指導部メンバーの参列はなかったものの、約1000人以上の関係者が出席した。
9月18日にちなみ、午前9時18分になると、一斉に大音量のサイレンが3分間鳴らされ、市内に響き渡った。また、瀋陽市をはじめ、遼寧省内の各都市でも同時刻にサイレンが鳴らされ、運転中の車は停車してクラクションを鳴らし、学校の生徒たちも校庭で黙とうした。
中国は今年を「抗日戦争勝利80年」として、7月末から抗日映画を次々と公開、多くの都市でナショナリズムが高まっており、中国在住の日本人の間では不安が広がっている。
中国のSNSを見ると、早朝からCCTVなどで「918」(ジウイーバー)関連の報道が相次いだ。ウェイボー(微博)のホット検索ランキングを見ると、「九一八事変94周年」「勿忘九一八」(918を忘れるな)といったワードやセンテンスが上位を占め、高い関心度を集めていることは一目瞭然だった。
9月18日の式典は例年行われているもので、今年とくに盛大だったようには見えない。だが、今年、特に人々の注目度が高いのは、前述の通り、今年が「抗日戦争勝利80年」という節目の年であることが関係している。
7月末以降、連続して抗日映画が公開され、9月3日には天安門広場前で軍事パレードが行われ、ロシアのプーチン大統領や北朝鮮の金正恩総書記が習近平国家主席の両サイドに参列したことだ。そうした一連の行事により、反日感情が高まっているということだ。
18日に式典が行われた瀋陽市に住む筆者の中国人の知人は「毎年行われている恒例の式典ではありますが、今年はとくに抗日映画の影響なのか、SNSでは『歴史を心に刻め』といった言葉をよく見かけるように思います。2カ月近く前から続く抗日映画の影響が、日本とまったく縁のない人々の間に、じわじわと効いているのかもしれません。映像の力は大きいですね。
でも、日本に一度でも何度も行ったことがあるという私の友人たちは、そんなことは一切関係なく、普段通りに過ごしています。この日はとにかく静かにして、SNSにも余計なことは書かず、無事に過ぎ去れば、という感じです」と正直な気持ちを吐露してくれた。
抗日映画については、筆者の以前の記事でも紹介したが、7月に公開された『南京照相館』(南京写真館)が9月初旬の時点で、約29億元(約600億円)という大ヒットを記録した。その後、8月に公開された映画『東極島』は地味めな映画で、あまり注目されなかったが、もともと7月31日に公開予定だった映画『731』は『南京照相館』と同様、公開前から評判が高かった。
中国政府がなぜ、この映画の公開を9月18日に延期したのかは不明だが、ナショナリズムを煽るには十分な効果があったといえるかもしれない。「731」は日付の意味ではなく、旧日本軍で細菌兵器を製造した731部隊(関東軍防疫給水部)から名付けた映画だ。上記の瀋陽市の式典同様、「918」という数字から、公開初日の1回目の上映は、多くの映画館で午前9時18分にスタートするという“こだわり”ようだった。それもSNSのネタになり、午前の1回目の上映時間をめがけて映画館に足を運んだ人が多く、チケットは初日だけで約2億5000万元(約50億円)以上が売れた。