前回『こんなメンタルクリニックは信用できない!ある日突然届く社員の「休職」「復職」願い…「診断書自動販売機」と化したクリニックから社員を救うには?』に続き、産業医の視点から、企業側からみた「休職ビジネス」問題を扱う。精神科医である筆者が企業の産業医として勤める場合、その任務は第一に「休職させること」ではなく、社員のこころの健康を守りつつ、就業を継続させていくことである。人事総務担当者と協力し、就業継続を支援する方法を考えたいと思う。
もっとも、産業医の多くは、筆者を含めて1年契約の嘱託に過ぎない。その上、経営者の意向、会社の方針、人事総務部門の業務慣行等があり、産業医はそれらを尊重しなければならない。
会社によっては、非常勤の産業医に対して、コンプライアンス遵守のための最小限の業務以上を希望しないこともある。法令で定められた業務のみ行い、その記録を残してくれれば十分と考えている場合もある。
ただ、筆者は、産業医である以前に精神科医でもあり、「仕事と健康の両立支援」こそ、職業的アイデンティティだと思っている。したがって、型通りの面談や、ただ書類の産業医欄に印鑑を押す以上の仕事をしたい。
会社によっては、メンタルクリニック発の一枚の診断書に翻弄されて、必要を超えた長い休職に入っている社員を複数出してしまっている会社もあって、人事ガバナンスが機能していないのではないかと内心思うこともある。しかし、思っても沈黙すべきなのが、嘱託産業医の立場である。
ところが、そんなある日、偶然、会社の上層部と話す機会を与えられ、その際に会社の経営陣としては、「無駄に休職させたくない。仕事を継続させる、ないし、早めに戦線復帰してもらいたいと思っている。治療と仕事の両立支援こそ、私は賛成だ」と言われることがある。これ幸いとばかりに、その日から産業医としての仕事の仕方を180度変える。
メンタルクリニック休職診断書の問題は、社会の根幹を揺るがす脅威となりえる。そのリスクに気づくべきは、経営者である。社長こそ、乱発される「要休職」診断書が人事総務担当者を困惑させている事実に気づいていただきたい。
休職発令の辞令には、「休職を命ずる」との文言とともに、「株式会社○○○○ 代表取締役 ○○○○」と記されている。ほかでもない社長自身の名がそこに記され、社長印が押されていることが多い。手続き上、発令したのは、社長ということになっている。
このWedge ONLINEの記事を読んでいる経営者の皆さんは、忙しくて時間がないかもしれない が、事態の深刻さを理解するには1分とかからない。「休職 診断書 即日発行 オンライン」でインターネット検索していただきたい。ただちに無数のメンタルクリニックがヒットする。
ついで、「休職 診断書 もらい方」で動画検索していただきたい。やはり、無数のサイトがヒットする。これらの膨大なサイトが示唆する事実は、まだ、診察していないはずのクリニックが、自宅療養に値する健康状態かを知らないはずなのに、今まさに会社で仕事をしている社員に対して、休職を誘っているということである。
その中には、抑うつ、不安、不眠等の精神症状を抱え、精神医学的治療を必要とし、真に自宅療養が必要な社員もいる。しかし、そうではない人も混じるであろう。
うつではあっても、「条件付き就業継続可能」なケースかもしれない。自宅療養は必要だが、その場合も「3ヵ月」もの長きではなく、「2週間」で済むかもしれない。さらには、そもそもいかなる精神医学的状態に該当しない場合もあるかもしれない。