ヨーロッパの自動車業界が、モビリティー転換とリストラの波にさらされる中、ミュンヘンで9月9日から6日間にわたり、自動車見本市IAAモビリティーが開かれた。会場では、中国企業のヨーロッパ市場への関心の強さと、ドイツ企業が中長期的に主軸を電池だけを使う電気自動車(BEV)に移そうとしていることが強く感じられた。
IAAは以前ヘッセン州のフランクフルトで開かれていたが、2021年からは2年おきにミュンヘンで開かれている。今年の訪問者数は約53万人と過去最高を記録した。
以前のフランクフルトでのIAAでは、車が見本市用ホールの中に展示されていた。これに対し、ミュンヘンでは主に業界関係者やジャーナリストらが訪れる見本市ホール(メッセ)とは別に、町の中心部の道路に「オープン・スペース」という展示場が設置され、市民が誰でも最新の車に触れられるようになった。見本市の名前もIAAから、IAAモビリティーに改称された。
筆者が訪れた9月9日には、ときおり雨がぱらつき風も強い悪天候だったものの、子どもを連れた夫婦ら多くの市民たちが、オープン・スペースを訪れて、自動車に見入っていた。
さらにIAAモビリティーと名付けただけあって、自動車だけではなく、自転車や公共交通機関に関する展示も行われていた。市民の自転車を無料で点検、修理するコーナーもあった。
今年のIAAモビリティーには、37カ国から約750社の自動車メーカーやサプライヤーなどが出展したが、最も多かったのが中国企業で116社。中国勢のヨーロッパ市場への積極的なマーケティング攻勢を印象付けた。中国市場ではBEVの値引き競争が苛烈さを増しているため、中国のメーカーは、ヨーロッパ市場を重要なターゲットと見なしている。
欧州連合(EU)の加盟国は、2050年までに気候中立を達成しなくてはならない。このため、ヨーロッパの国々にとって自動車の脱炭素化は極めて重要なテーマだ。その結果、BEVメーカーにとってヨーロッパは、ビジネス拡大のチャンスを秘める市場となっている。
EUが昨年、中国からのBEVに関税をかけ始めたことは、ヨーロッパ側の警戒心を示している。彼らは、国からの補助金で価格を引き下げられた中国のBEVが、ヨーロッパ市場を席巻することを恐れている。
中国のBEV市場で最大のマーケットシェアを持つ比亜迪(BYD)は、ミュンヘンの目抜き通りにひときわ目立つ大きなスタンドを設置した。多数の訪問者が、BYDの車の運転席に乗り込んだり、写真を撮影したりしていた。
ヨーロッパでは、中国メーカーのマーケットシェアはまだ小さい。調査会社JATOによると、今年5月の全ての中国企業の販売台数を合計しても、ヨーロッパ市場でのシェアは5.9%に留まっている。それでも、中国のBEVの販売台数は、着実に増えている。BYDの今年5月のヨーロッパでの販売台数は約7100台とまだ少なかったが、前年同期比で115%増えた。ドイツの路上でも時折BYDの車を見かけるようになった。IAAモビリティーでは、小鵬汽車(シャオペン)、零跑汽車(リープモーター)などドイツでほとんど知られていない中国企業もBEVを展示した。
韓国の自動車メーカーも、大通りに広いスタンドを設置して、存在を誇示していた。これに対し日本からは部品メーカーが数社参加しただけで、自動車メーカーは全く参加しなかった。燃費が非常に良い日本のハイブリッド車は、ドイツの消費者の間で好評である。特にタクシー運転手の間では、トヨタのプリウスやカローラなど、日本のハイブリッド車の人気が高い。それだけに、日本のメーカーの不参加を寂しく感じた訪問者もいた。