現状維持は時として最大のリスク!『一勝九敗』のユニクロ・柳井会長が伝えたいこと

2025.09.30 Wedge ONLINE
◆今日のお悩み
大成長を遂げた企業は、リスクを厭わずに挑戦した過去があるといいます。しかし、経営者として、自分の任期は安定飛行を続けたいのですが……。
 

 「自分の任期は安定飛行で終えたい」――。経営者であれば誰しも一度は抱く自然な感情だ。組織を乱さず、着実に利益を重ね、無難に任期を終える。それは責任ある判断ともいえる。

 しかし、考えてほしい。もし安定に甘えた瞬間、未来の市場であなたの会社が取り残されるとしたら? 企業とは本質的に、変化する社会に応え続けることでしか生き残れない存在である。現状維持は、時として最も大きなリスクになるのだ。

企業を継続させながら成長させる糧となる柳井正氏の言葉とは(Antoine Flament / gettyimages)

 その現実を誰よりも知っていたのが、ユニクロを世界企業へと押し上げたファーストリテイリング会長兼社長、柳井正である。2011年の元旦、柳井は全社員に向けて宣言した。「CHANGE OR DIE――変わるか、死ぬか」。この言葉は単なるスローガンではなく、企業が大きくなるほど潜む「大企業病」への鋭い警告だった。

 現状に安住した瞬間、組織は衰退の道を歩む。だからこそ、自己否定と革新を絶えず繰り返さなければならない――。柳井は全社員にそう訴えた。

挑戦と失敗の連続が築いた成長

 ユニクロの歴史は、挑戦と失敗の連続である。1984年、広島市にオープンした一号店は「郊外型・低価格衣料専門店」という地方発の新業態に過ぎなかった。しかし柳井は早くから「世界ナンバーワンのアパレル企業になる」という壮大な志を掲げる。

 90年代の全国展開で店舗網を広げ、98年にはフリースが空前の大ヒットとなった。しかしそこで満足することはなかった。成長の陰には、在庫過多や商品マンネリ化という警告がすでに見え始めていた。

 01年にはニューヨーク進出を果たしたが、アメリカ市場は日本の成功モデルをそのまま受け入れはしなかった。サイズ感、気候、ライフスタイル、すべてが壁となり、多くの店舗を閉鎖する結果に終わる。

 ロンドンでも苦戦は続いた。さらに中国市場でも、消費者ニーズや流通環境、品質管理など、数え切れない試練が待っていた。

 国内でも挑戦と失敗はあった。ファミリー向けの「ファミクロ」、スポーツウエアの「スポクロ」、さらには野菜販売など、新規事業は思うように伸びず、撤退を余儀なくされることもあった。

 しかし柳井は、これらの失敗を次の改善の糧として活かした。撤退や失敗は単なる損失ではない。学びと改良の種なのだ。この哲学こそが、ユニクロを真のグローバルブランドに育て上げた。

一勝九敗
柳井 正 (著)
693円(税込)

 柳井自身が著書『一勝九敗』で語ったとおり、「九回挑戦して九回失敗しても、一度成功すればいい」のだ。失敗の蓄積が次の成功を呼ぶ。この信念は社内文化として定着し、挑戦と失敗を恐れぬ組織をつくった。まさに「CHANGE OR DIE」という言葉は、挑戦の必要条件を凝縮したものである。

 さらに、ファーストリテイリングが挑戦を続けられる理由には、単なる利益追求ではない確固たる事業理念がある。「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」――。このステートメントは、ユニクロという企業が社会に何を成し遂げるのかを明確に示す羅針盤である。

 理念があるからこそ、失敗やリスクを恐れず、社員全員が挑戦に踏み出せる。理念がなければ挑戦は単なる博打にすぎない。あなたの会社や組織にも、揺るぎない理念はあるだろうか?

改良をやめない文化が未来をつくる

 ユニクロの強さは、挑戦する勇気だけにとどまらない。ヒット商品が生まれても「完成品」と考えず、改良を積み重ねる姿勢が企業文化として根づいている。これは単なる商品開発の技術論ではない。柳井が全社員に求める自己否定と革新の精神そのものだ。