オランダの半導体メーカー・ネクスペリアの中国工場からの製品輸出が一時禁止された問題は、ドイツの自動車産業の中国依存度の高さを暴露した。事態は収束の方向に向かっているが、一時は多くの企業が生産停止のリスクに怯えた。
10月4日、中国商務省が行った発表は、ドイツの自動車メーカーや部品サプライヤーの経営者たちに衝撃を与えた。中国政府が、オランダの半導体大手ネクスペリア(本社:ナイメーヘン)の中国工場からの半導体の輸出を禁じたからだ。
ネクスペリアは、自動車の生産に欠かせないディスクリート半導体を毎年約1100億個生産している。その内、約50%が自動車メーカーや部品サプライヤーに供給されている。年間売上高は約20億ユーロ(3600億円・1ユーロ=180円換算)と推定されている。
ディスクリート半導体は、1個の半導体が単一の機能を持つ、標準的半導体だ。安価な部品だが、車のフロントグラスに落ちた雨滴を感知してワイパーを作動させる機能や、エアバッグ、運転補助機能などの電気系統に欠かせない。1台の車にネクスペリアの半導体が約500個も使われているケースもある。
ネクスペリアはドイツのハンブルク工場でウエハー(半導体の生産に使われる円盤状の薄い基盤)を製造して、中国・東莞市の工場に輸出。中国工場で半導体を組立て、欧州、アジア、米国の自動車メーカーや部品サプライヤーに輸出していた。中国でパッケージングを行っているのは、人件費が欧州に比べて安いためだろう。
ネクスペリアは元々、オランダの大手電機・電子メーカー、フィリップスの半導体部門から2006年にスピンオフされて誕生したNXP半導体という企業だった。19年には中国のウイングテック・テクノロジー(闻泰科技股份有限公司)という半導体企業が、NXPを買収した。
ウイングテックは浙江省の嘉興市に本社を持つ企業で、中国の国営企業も部分的に資本参加している。ウイングテックの中国人の最高経営責任者(CEO)A氏が、ネクスペリアのCEOも務めていた。
ところが今年9月30日、オランダ政府経済省が、ネクスペリアの管理権を事実上掌握した。同国政府はGoods Availability Act(物資利用可能性法)という法律に基づき、ネクスペリアに対して1年間にわたり、政府の許可なしに工場・資産の移転や取締役の任免などの重要な決定を行うことを禁止した。
経済省はその理由を、「ネクスペリアの経営に不健全な傾向が見られ、欧州の産業界にとって重要な半導体の供給に支障が生じる恐れがあるため」と説明した。物資利用可能性法は、東西冷戦中の1952年に施行された法律で、政府に対し企業の管理権を掌握する権限を与えるものだが、実際に適用されたのは今回が初めてだ。
さらにオランダの企業裁判所は、中国人のA氏をネクスペリアのCEOの座から更迭するとともに、同社の経営に関する議決権を、企業裁判所が任命した独立の管財人に移転した。企業裁判所は、ネクスペリアのステファン・ティルガー最高財務責任者(CFO)を暫定的なCEOに任命した。
この背景には、ネクスペリア社の内紛があった。オランダの報道機関は、「ネクスペリアの中間管理職たちが、『A氏がネクスペリアのノウハウや資産を中国に移そうとしている』と主張して、企業裁判所に提訴していた」と報じている。