東大合格No.1の開成は運動会で生徒を育てる

名門中の名門と言ってもいい、開成の「深イイ授業」とは?(写真:筆者提供)
名門進学校で実施されている、一見すると大学受験勉強にはまったく関係なさそうな授業を実況中継する本連載。第7回は東大合格ナンバーワンの実績を持つ、東京の私学校「開成」を追う。

「何組でした?」が開成OBの合言葉

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開成といえば運動会。運動会といえば開成。卒業後、開成同窓生が偶然出会うと、合言葉のように「何組でした?」と聞き合う。紫・白・青・緑・橙(だいだい)・黄・赤・黒。高2・高3で所属した8色のチームカラーが、卒業後何十年経っても自分のアイデンティティの一部として、開成OBの体にはしみ込んでいるのだ。

運動会当日に見られる競技中の勇猛さや迫力といった観点でいえば、開成に勝るとも劣らない学校はほかにもあるだろう。しかし、開成の運動会がことさら特別なのは、前日までの膨大で緻密な準備とそれを動かす組織力にある。

開成の運動会は例年5月中旬の週末に開催される。高2を最高学年とする準備委員のメンバーは運動会のためにほぼ丸1年を費やす。また高3は下級生5学年のクラス担当となり、4月からほぼ毎日競技や応援の指導に当たる。クラス担当と下級生の間には場合によっては部活の先輩・後輩以上の親密な信頼関係が築かれる。

学年をまたいだリレー系の種目はいくつかあるが、基本的に各学年1競技。各競技に厳格なルールがあり、そのルールの中で試合を有利に進めるための伝統的戦略があり、それを改良した革新的戦略、はたまたルールの穴をついた珍戦略も考案される。対戦チームを研究し、試合ごとのカスタマイズ戦略も用意する。開成の運動会競技は、体力だけではなく、知的戦いでもあるのだ。いやむしろ、そこで勝負がつくことが多い。

優勝するために、各チーム、4月からほぼ毎日練習を積み重ねる。高3が練習風景を動画に撮り、下級生一人ひとりの動きを確認、改善点を指導する。自分が指導した後輩たちが勝利を収めることができるかどうか、高3のクラス担当の肩に責任が重くのしかかる。その様子はまるで部活だ。

つい数カ月前まで受験勉強に追われていた中1の生徒たちは、いきなりの「しごき」に面食らう。放課後はほぼ毎日、運動会の練習をさせられ、ふらふらになって家路につく。

競い合うのは競技での勝ち負けだけではない。各組の応援歌「エール」は毎年生徒たちが作詞・作曲する。「アーチ」と呼ばれる約15m四方の巨大な絵画も、組ごとに毎年生徒たちが描く。エール賞とアーチ賞があり、来場者にも投票をお願いし、優勝を決める。いわば、運動会の場でクラス対抗「合唱コンクール」と「絵画コンクール」を行うようなものだ。

頭脳で筋肉を圧倒する

2017年5月14日、創立146周年記念開成学園大運動会が挙行された。

運営本部のテントにはいくつものトランシーバーやビデオカメラが用意され、準備委員、審判団、審議会のメンバーがつねに慌ただしく動いている。グラウンド上の競技の進行を見ながら、各部署にトランシーバーで2手先・3手先の指示を出す。テントの中に教員は1人もいない。教員は、救急車を呼ばなければいけないようなケガ人が出たときや災害時など、よほどの場合でないかぎり会の進行には口を出さず、観客の立場に徹する。

各競技には数十名の審判団が動員され、反則を厳しくチェックする。反則を犯した者はすぐに退場させられる。退場者が出れば出るほど戦いは不利になる。勝っても涙、負けても涙。試合終了後はまるで部活の引退試合の様相だ。

中でも高3の棒倒しは80年以上の歴史を誇る、開成の運動会の象徴。攻撃、遊撃、迎撃、サードというポジションに分かれて、それぞれが役割を果たす。相手の棒の先端を140cm以下まで倒すか、棒の根本を50cm以上浮かせば勝ちだ。