

おおた としまさ(以下、おおた):僕は、もともと教育や育児をテーマに活動しています。でも、「男性も育児を」という文脈で物事を考えたときに、「働き方」という問題は避けては通れませんでした。
常見 陽平(以下、常見):以前からおおたさんは「働き方改革」は「ゆとり教育と同じになる」と警鐘を鳴らされていましたね。
おおた:働き方改革とゆとり教育の何が共通しているのか。もともとゆとり教育の目的は「20年、30年後の社会を素敵に創れるような未来の大人を育てましょう」「目先の学力にとらわれないような教育をしていきましょう」という話だったはずです。
目先の点数が落ちるということは、わかっていたじゃないですか。だけど、その「副作用」の部分についてちゃんと語ってこなかったから、ちょっとしたネガティブな反応が出た時に、国が過剰なリアクションをして、ゆとり教育は頓挫してしまいました。
働き方改革でも、長時間労働是正を進めるとその分、売り上げがダウンするなど、ネガティブな反応が起こるはずです。でもそこは、あまり語られていませんよね。このままでは経済の後退みたいな反応が出たときに過剰な揺り戻しが起こるのではないかと懸念しています。
常見:何をするにしても、どんな政策であったにしても、その副作用は必ずあるはずです。
おおた:前もってできる範囲で副作用を想定しながら、そこに対する打ち手も準備しておいてこそ政策です。医療でいうインフォームドコンセントをちゃんと取らないで進める政策は、本当の政策と呼べるのかと。
常見:メディアで紹介される「働き方改革」の成功企業や成功事例にも、必ず「副作用」はあります。
よくある「労働時間を減らしたけど、売り上げは落ちなかった」みたいな話は注意して分析しなくてはいけません。それが下請けイジメによって成り立っているのなら問題だと思う。あるいは業界全体が成長しているだけかもしれない。
たとえば某人材派遣会社が働き方改革をして、長時間労働が減って、社員が子どもを産んだ数が増えて、しかも売り上げは伸びた。こんな三拍子揃っていいことなんです、と喧伝されるけど、実は派遣業界はみんな伸びていたという。
おおた:しかもちょっと待てよと。そもそも「働き方改革」でみんながちゃんと正社員的にというか、まともな仕事に就けるようにしようって言っているときに、非正規マーケットが盛り上がっていること自体、大きな矛盾じゃないですか(笑)。