「出世したのに報われない」課長が抱える葛藤

「今の会社でどこまで出世したいですか?」

そう聞かれたらあなたはどう答えるだろうか。産業能率大学が毎年行っている「新入社員の会社生活調査」で、今年度は、将来に目指すキャリアプランとして「管理職」と回答した割合が男性で初めて6割、女性で初めて3割を超えた(同じ設問で尋ね始めた2000年度は、男性30.7%、女性13.2%)。

管理職の入り口となる課長職は、日本企業におけるキャリア形成の要。ここでの仕事ぶりが将来を大きく左右する。週刊東洋経済は8月27日号(22日発売)で『新・出世の条件』を特集。役員になる人、課長止まりの人の違いはどこで決まるのか。激変する出世の条件に迫った。

課長の裁量は予想以上に小さい?

今回、会員制の転職サイトを運営するビズリーチの協力を得て、現役課長にアンケート調査を行ったところ、「課長になってよかったことがない」と答えた人が全体の約4割もいた。そして、「上司とコミュニケーションが取りにくく、部下には厳しく指導しにくい」(サービス業・30代)、「業務を課すのみで、無責任な上司が多い」(不動産・50代)など、上司からの厳しいノルマと部下のマネジメントに悩む課長の声が聞かれた。

画像をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

管理職になれば自己裁量が広がるものだが、本誌アンケートでは「(課長の裁量は)予想していたよりも小さい」と答えた課長の割合が41%と最も多かった(「予想以上に大きい」と答えた割合は27%)。

裁量が小さいと答えた現役課長からは、上司に対して「本人の思考が目先のことだけに支配される傾向がある」(サービス・30代)、「自分の事しか考えていない」(コンサルティング・50代)、「裁量を与えてくれないのに、判断を求めても無反応」(化学メーカー・40代)などなど、不満も多かった。

「上司の判断がその都度ぶれるため、部下への説明に困る」(小売り・50代)といった状態では課長は板挟み。マネジメントの権限が限られる中、「上司が社内政治に奔走している」(金融・40代)ようではストレスがたまる一方だろう。また、「現場を見つつ管理もするのにはタスクが多すぎる」(ソフトウェア・30代)とプレイングマネジャーとしての厳しさを伺わせる声もあった。

一方、人事のプロたちは現在の課長の仕事ぶりをどうみているのか。

匿名を前提に大企業の人事部長に聞いたところ、機械メーカーのAさんは「愚痴ったりぼやいたりしてばかりの課長がすごくたくさんいる。ましてや、部下と一緒になって部長や役員に対する愚痴を言っているようではダメ。課長以上の役職は期待できないなと思う」と話す。

ただ、「今の課長はとにかく仕事に追われており、昔の係長くらいのイメージ。タクシー券利用などの特権もほとんどない」とAさんも大変さは認識している。一方、エンジニアリング会社のBさんは「うちの場合、出張の日当も役職で分かれておらず、部長も新入社員も一緒。そういう意味では課長は責任が重い1人のワーカー」と打ち明ける。

このBさんは「課長に選ばれた時点では、それまでの個人の業績を評価して昇格させているはず。だから、マネジメントに手こずるのは当たり前」と一定の配慮を示す。しかし、「課長がいちいち部長にお伺いを立てていると、部下は課長を飛ばして直接上に確認を取るようになる」と言われるのだから、新米課長はツライ。

課長の5割が「飲み会」が役立つと回答

プレイングマネジャーの課長の業務は増える一方だともいわれる(写真はイメージ)(撮影:今井康一)

ITサービス会社に勤めるCさんが「課長は、今日明日の仕事をどうするのかに加え、労務管理もますます大変になっている。われわれとしても、悩める課長にできる限りの支援をしないといけない」というように、人事部側の役割も当然ながら重要だ。

産業能率大学が上場企業の課長を対象に行ったアンケート(2015年11月実施)で、「部下とのコミュニケーションに有効だと思う施策は?」という問いに対し、52%と最も割合が高かった回答は「飲み会」だった。そこで、本誌アンケートで現役課長に部下と飲みに行く頻度を聞いてみたところ、5人に1人が「部下とは飲みに行かない」と答えた。さらに「2~3カ月に1回」が34%、「月1回」が20%と、飲みニケーションをする課長でもその頻度は意外に低かった。

プレイングマネジャーとして課長の業務は増える一方だといわれる。本誌アンケートでは課長の睡眠時間は約3人に1人が5時間未満。取引先との付き合いや自分の業務が多くて部下を誘う暇もないのか、それとも部下に断られるのが心配で遠慮しているのか。いまどきの課長は、とにかく大変だということがよくわかる。

(文=井下 健悟)