マイクロソフトがほれた「GitHub」とは何者か

6月12日に東京で行われたギットハブのイベントには、同社のジェイソン・ワーナー上級副社長(左)が参加。日本マイクロソフトの榊原彰CTO(最高技術責任者、写真中央)も駆けつけた(記者撮影)

「ウインドウズの会社」から「クラウドの会社」に変わろうともがく米マイクロソフト。大型買収はその象徴となれるのか。

6月4日、マイクロソフトは米GitHub(ギットハブ)社を75億ドル(約8300億円)で買収すると発表した。同社のM&Aとしては、2016年の米リンクトイン(262億ドル)、2011年の米スカイプ(85億ドル)に次ぐ、過去3番目の規模となる。

エンジニアの必需品、それがギットハブ

ギットハブは2008年に設立された企業で、ソフトウエアエンジニアにとって欠かせない開発プラットフォームとなっている。利用者は全世界で2800万人を超え、個人だけでなく、スタートアップから大企業まで法人の利用も活発だ。

ギットハブの「ギット」とは、エンジニアが書くプログラムコードのバージョンを管理できる仕組みを指す。ワードやエクセルのファイルと同様に、コードでも前後のバージョンでどのような変更(差分)があったかを確認したい場面は多い。また、前のバージョンに戻したい時もある。そうした管理ができる技術として、ギットは主流なものの1つだ。

自分のパソコンにギットの情報を保存することもできるが、ほかのエンジニアと共同作業をしようとすると、変更があるたびにファイルを共有しなければならない。そこでギットハブを使えば、オンライン上で変更箇所を確認できたり、複数のバージョンを統合できたりする。

近年のソフトウエア開発で重視されているのが、「オープンソース」の文化だ。自分が作ったツールを全世界に無料で公開することで、ほかのエンジニアも利用できるほか、バグを直してくれたり、新たな技術の発展も生まれるというメリットがある。

エンジニアが用いる技術の多くはオープンソースだ。そしてギットハブでは、オープンソースのツールのほとんどが管理されている。”オープンソースの聖地”との異名を取るのもそのためだ。

同社のテクノロジー担当上級副社長、ジェイソン・ワーナー氏は「開発環境は複雑化するばかり。オープンソースで開発者がつながり合うことによって、皆で問題解決をできるようになった」と語る。

そんなギットハブをマイクロソフトはなぜ、巨額の費用を投じて買収するのか。

かつてのマイクロソフトといえば、「ウインドウズ」や「オフィス」を中心に独自のソフトや端末を売ることに終始する”閉じた”ビジネスモデルを展開していた。特にスティーブ・バルマー前CEOは、オープンソースの代表格であるOS「リナックス」を徹底的に敵視するなど、他社を排除する姿勢が明確だった。

だが、2014年にバルマー氏の後任として就任したサティア・ナデラCEOはそれまでの方針を転換。クラウドインフラサービス「アジュール」を成長の柱と位置付け、アジュール上ではリナックスを使えるようにするなど、真逆のオープン戦略を進めている。

実際、ギットハブの買収発表の電話会見で強調されたのは「Microsoft Loves Open Source(マイクロソフトはオープンソースが大好きだ)」というメッセージだった。

同社の約1万7000人の社員がギットハブにオープンソースプロジェクトを投稿しており、単独企業として最大のコントリビューター(貢献者)となっている。ナデラCEOは「われわれは開発者ファーストの会社だ」と強調する。

すべてはクラウドビジネスのために

クラウドビジネスの成否は、開発者コミュニティの規模で決まるといっても過言ではない。調査会社ガートナージャパンの亦賀(またが)忠明・最上級アナリストは、「新しいデジタルサービスは今後、クラウドから出てくる。それを作る人がいなければプラットフォームは成長しない。マイクロソフトは開発者コミュニティ形成の部分で弱かった」と指摘する。