「似た人ばかり」採用する会社に欠けた視点

新しいモノを生み出せる企業と生み出せない企業の違いはどこにあるのでしょうか(写真:metamorworks/istock)
ビジネスモデルが一夜にして崩れ、新しいライバルが突然現れる今の時代、「データ」や「合理性」だけに頼ることはできません。だからこそ「アート」が持つ直感力や創造力が必要となってきています。
世界の起業家や経営者たちはなぜアートを学ぶのか。欧州トップクラスのビジネススクールで教鞭を執るニール・ヒンディ氏の著書『世界のビジネスリーダーがいまアートから学んでいること』の内容を一部抜粋し再構成のうえお届けします。

イノベーション――。

この言葉をメディアで聞かない日はないだろう。書籍の全文を検索できるグーグル・ブックスで「innovation(イノベーション)」と検索すると、4000万件以上ヒットする。カンファレンス、コンサルティング会社、大学、マネジャー向けプログラム……。どこに行ってもイノベーションが大きな課題として取り上げられている。

確かにイノベーションは重要だ。これによって人類の新しい道が開け、私たちの生活に影響を及ぼす重大な課題を解決できるようになる。企業に関して言うなら、イノベーション、つまり業界や市場にとって価値ある新しい製品・サービスを生み出すことで存続することができる。

イノベーションを生み出せない環境

イノベーションが重要なのに、企業はなぜそれに逆らうような仕組みになっているのか疑問だ。マネジャーは皆、同じ考え方をするよう訓練され、特定の部署だけに独創的なアイディアを生み出すことを求める。

会社は同じ方法で同じ大学の学生を採用し、同じような仕事に就かせる。そして彼らは似たような成果を挙げるだろう。しかし、誰もが同じやり方で同じことをしていたら、革新も差別化も期待できない。

イノベーションのベースとなるのは創造力だ。創造力とは新しいものをつくり出したり、新しい考え方やアイディアを生み出したり、ユニークな発想で無関係と思われていたものを結びつけたりする能力だ。

かつてないスピードで経済が変化する中、企業はどのような従業員を「適材」とするのか見直しを迫られている。そして今日のような時代には、創造的な人々が必要だ。そもそも「創造的で革新的な企業」などというものは存在しない。あるのは、そういう企業をつくる「創造的で革新的な人々」である。すべては「人」から始まるのだ。

ビジネスモデルが前触れもなく陳腐化し、競合が思わぬところから急に出現する今の時代、ビジネスにおいて「論理的・合理的」判断だけに頼ることはできない。だからこそ、ビジネスに創造性をもたらすアートの世界のスキルやプロセス、知識が必要となっている。たとえば、対象を細部まで観察する、現状に疑問を投げかけ続ける、アイディアを創出する、無関係に見えるものを結びつける、といったアーティストの視点を取り入れることだ。

ビジネススクールやMBAプログラムから役員室へ直行したようなエリートは、競合分析・ビジネスゲーム理論・市場モデルなどのツールやテクニックを深く考えずに使うことがある。さらにひどい場合は、「こうしたツールがそもそも適切かどうか」を考えていなかったりするのだ。

彼らは企業を、「明確に組織化され、一定の秩序のもとに物事が進む場」ととらえている。そこでは「感情」は歓迎されない。つまり、企業が人間によって構成され、人間によって動かされ、その人間には「感情」があることを、彼らは見落としている。企業から「感情」を排除したこと、あるいは排除しようとしたことで、アートとビジネスの間には大きな断絶が生じてしまった。これは現代の企業が抱える大きな問題だといえる。