決断力を磨くためには現場の修羅場も必要だ

高校時代から40年以上の親交がある印南一路氏(写真左)と新浪剛史氏。大学教授と経営者が重視する「決断力」の本質とは(撮影:今井康一)
人は誰しも日々大小さまざまの意思決定をしているが、すぐれた決断をするのはなかなか難しいもの。しかし、決断力は手順を正しく学ぶことで確実に磨かれ、人生を切り拓いていくための糧にもなると、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスで意思決定や交渉についての人気講義を担当する印南一路氏は言う。このほどその本質をまとめた『サバイバル決断力』(NHK出版)を上梓した。
すぐれた決断をするためには、何が必要なのか? 印南氏の横浜翠嵐高校時代の同級生で、グローバルに展開する企業のトップとしてさまざまな決断をしてきたサントリーホールディングス社長・新浪剛史氏との対談で、その秘訣を聞いた。

成功の保証はないけど意思決定するのが「決断」

――『サバイバル決断力』では「意思決定」や「決断」の重要性を述べていますが、そもそもこの2つにはどんな違いがあるのでしょうか?

印南:意思決定は、ひと言でいえばいくつかの選択肢の中から「判断」して「選択」することです。判断するために客観的な情報収集を行い、それをもとに成功する確率を計算するなど、さまざまな角度から分析して選択します。決断は意思決定に含まれますが、中でも不確実性があって成功する保証はないけど、一定のリスクを取って意思決定することを指します。企業の新規事業への進出やM&Aなどもそうですが、個人でいえば結婚や転職なども「決断」の部類に入るといえます。

新浪君は今までに大きな決断をいくつもしています。商社時代に留学のための休職制度がない状況下でハーバード大学への留学を決意したこともそうだし、商社を辞めるとき、サントリーの社長に就くとき……etc。まさに「決断のプロ」だね(笑)。

新浪:いやいや、今でも決断する自信があるかといえばないものですよ(笑)。そうはいっても経営者の立場にあるから、プロとして日々決断をしています。今、決断したことが将来正しいかどうかはわからない。だけど、一度決めたら躊躇せずにいくようにしています。もちろん、すべての決断が成功してきたわけではないし、失敗することもありました。でもそれが糧になって次の意思決定や決断につながった部分はありましたね。

印南:『サバイバル決断力』の巻末では、「モタ先生」こと精神科医の斎藤茂太先生(1916~2006)の「人生に失敗がないと、人生を失敗する」という言葉を紹介しているけど、まさしくその言葉どおりだね。

新浪:僕は若いうちから決断が迫られる立場に立たせてもらったけど、それがよかった。自分で決断する状況に追い込まれないと、決断力は身に付きませんからね。早いタイミングだったので、失敗しても取り返しがつく。決めるときにはいろんな助言や示唆をもらい、毎日スピーディーに決断し、意思決定したときにはそれを論理立てて説明する。それをずっと積み重ねてきて、今があるのだと思います。MBA取得のためのビジネススクールでは竹光(竹を削ったものを刀のように見せたもの)は与えてくれるけど、それを本物の刀にしていくには決断を重ねていかないといけない。だから僕は、決断力というのは現場の修羅場で最も身に付くものだと思っています。

――経営者として意思決定や決断をするうえで、難しいと感じることはどれくらいありますか?

新浪:それはもう、難しいことだらけですよ(笑)。ときには朝令暮改ならぬ「朝礼朝改」をしたこともありますから。でもそれは、損失をなくすために行ったものなので、一般的には恥ずかしいかもしれませんが、僕自身は恥ずかしいとは思わなかった。