声優に憧れる人が知らない「厳しい収入事情」

声優業ははたして儲かる仕事なのか? 声優・大塚明夫氏が、報酬についてぶっちゃけます(写真:EKAKI/PIXTA)
『攻殻機動隊』シリーズのバトー役や、『機動戦士ガンダム0083』のアナベル・ガトー役など、多くの代表作を持つベテラン声優の大塚明夫氏が語る「声優論」。第2回では、「声優業界の収入事情」について解説します。

未来の保証なき声優業は、収入という面から見ても得が少ないと言わざるをえません。大人気の声優をテレビなどで見ればなんとなく「お金持ちそう」と思うかもしれませんが、どんな業界だろうと上位1%の人間は金持ちに決まっています(もっとも、声優業界の上位1%が稼ぐ金額は、ほかの職種のそれよりも低いと思いますが)。

そもそもまともに専業で食える声優自体が少ないのですから、大儲けしている声優なぞ、どれだけ希少な存在かは推して知るべしです。

ほとんどの声優はローンが組めない

単純に儲からないだけでなく、声優の収入は大変不安定です。われわれは声優プロダクションの社員ではなく、自分の名前で仕事をとる個人事業主ですから、できた仕事分の報酬がすべてです。今月の収入は1万5000円、翌月は10万円、その翌月は0円、なんてこともあります。

こういう収入形態で生きる以上、社会的な信用は得られないと思ったほうがいいでしょう。実際、ほとんどの声優は大型のローンが組めないのです。銀行が気前よく大金を貸す相手は、5年後、10年後の収入が約束された人間だけ。「今期の人気アニメで主役をやっています!」と言ったところで、じゃあそのキャラクターはこの先毎日あなたを食わせてくれるんですか、という話ですよね。

もちろん声優全員がローンを組めないわけではありません。私も現在、住宅ローンを粛々と支払っている最中です。「こいつなら金を貸しても戻ってくるだろう」と判断されたから組めたわけですが、デビュー当時にはそんなこととても無理でした。

これだけ読んでもぴんとこないでしょうから、声優の報酬形態について簡単に説明しておきます。声優の世界には「ランク」という制度があります。日本俳優連合(日俳連)に登録している俳優に適用される制度で、現在声優として活動している役者の多くがこれに従って報酬を得ています。

1番下に位置するのが「ジュニア」。これは新人養成期間で、仕事1本当たり1万5000円の報酬が基本です。3年間の新人期間を過ぎると「ランカー」と呼ばれ、出演作品の尺30分に対して1万5000円のランク15を始点に、1万6000円のランク16、1万7000円のランク17……というように1000円単位で値段を上げていくことが可能になります。

30分アニメ一クール(12回分)の主役に指名されたとして、その声優Aがランク15なら、ギャランティーは1万5000円×12で合計18万円というわけです。

また、作品が二次利用されると、「転用料」が発生します。TV/DVD/ネットと3チャネルにわたって展開されれば、金額がだいたい2.4倍ぐらいになるでしょうか。ランク15なら、大体43万円ということになります。「なんだ意外ともらってるじゃねえか」と思われるかもしれませんが、3カ月みっちりやってこれです。主役級の人ですら、これだけでは食っていけないことがわかってもらえるでしょう。

設定は自己申告制ですが、所属事務所のマネージャーなどの判断も関わってきますから、実際はあまり突拍子もないランクにはできないでしょう。呼ばれた仕事が映画だろうがアニメだろうが、基準となるのは原則的に作品の長さであり実働時間ではありません。

30分アニメのために何時間スタジオに詰めていようと、ランク15なら支払われる金額は1万5000円です(状況に応じて色をつけてくれる制作会社や声優プロダクションもありますが)。