「推論力」がある人とない人の決定的な違い

これらの「目に見えないもの」は、目に見えないだけに、なかなか気づきにくいのが難点です。しかし「気づきにくい」ことはほかの人も同様なので、もしあなたが「目に見えないもの」の共通点を発見し「法則化」できれば、ほかの人の一歩先を行く競争力になりやすいのです。

洞察的帰納法の頭の使い方

それでは、どのような「頭の使い方」をすれば洞察的帰納法をマスターすることができるのでしょうか? そのカギは「抽象化」と「多面的な視点」の合わせ技にあります。

「抽象化」とは「形のある実体」を手がかりにしながらも、それにとらわれることなく「形のない概念」に抜き出していくことを指します。例えば先ほどの例でいえば「水→飲めるもの」が抽象化です。

そして「多面的な視点」とは、抽象化で得た「概念」をさまざまな視点で捉え直すことを指します。こちらも先ほどの例でいえば「水=飲めるもの、洗えるもの、火を消すもの」が挙げられるでしょう。

より深く理解するために、別の例を使って解説しましょう。

事実①:「ノウハウ」は、使えば使うほど組織に定着する
事実②:「特許」は、用途が広ければ広いほど資産価値が増える
事実③:「リーダーシップ」は、使えば使うほどスキルが磨かれていく

「ノウハウ」「特許」「リーダーシップ」はまったくの別物であり、一見、共通点がないように思えます。しかしこれらを、それぞれの意味にとらわれることなく「概念」を抜き出す頭の使い方をしてみましょう。すると、さまざまな推論を巡らせるうちに、あなたは「この3つは、どれも企業にとっての資産である」ということに気がつけるはずです。

「ノウハウ」「特許」「リーダーシップ」から「企業にとっての資産」という概念を抜き出したことで、あなた次のような「共通点」を発見したことになります。

●共通点の発見:この3つの共通点は、どれも「企業にとっての資産」であることである

しかし、ここで考えを止めてしまっては道半ばです。今度は「企業としての資産」という概念に対して「多面的な視点」で捉え直してみましょう。「多面的な視点」の切り口は、例えば次のとおりです。

・「目的」と「手段」の視点
・「原因」と「現象」の視点
・「量」と「質」の視点
・「論理」と「感情」の視点
・「有形」と「無形」の視点 etc

こうしてさまざまな視点を巡らせていくと、あなたは「ノウハウ」「特許」「リーダーシップ」の共通点が、企業の「無形の」資産であることに気がつくはずです。すると、この3つの新たな共通点は、次のとおりとなります。

●共通点の発見:この3つの共通点は、どれも「企業にとっての無形資産」であることである

ここまでくれば、あなたは「ノウハウは、使えば使うほど組織に定着する」「特許は、用途が広ければ広いほど資産価値が増える」「リーダーシップは、使えば使うほどスキルが磨かれていく」という3つの事実と照らし合わせることで、

●結論:無形資産は、使えば使うほど価値が増える

という「法則」を手に入れることができたことになります。このように「見えている事実から、見えない概念を見抜き、そこから多面的に発想する」ことができれば、これまでには得られなかった新たな発見がもたらされることがあります。

ビジネスの世界では「何をやらせても優秀な人」が存在しますが「何をやらせても優秀な人」の共通点は、どんなささいな事実からも「見えないもの」を見抜き、それらを洞察的帰納法で「法則化」し、さまざまな分野に応用する習慣を持っていることです。

今年は推論力をマスターしよう

今年はオリンピックイヤーであり、5Gが本格導入される年ですが、もう1つ、トピックがある年でもあります。それは大学入試センター試験の最後の年でした。

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現在、大学入試制度においてはさまざまが議論なされていますが「知識の量だけでなく、答えが1つに定まらない問題に自ら解を見いだしていく思考力・判断力・表現力が重要である」という大きな方向性は、多くの方々が認めるところだと思います。

しかしこれは、何も受験生に限ったことではありません。私たち大人もまた、5G時代に「正解」ではなく「可能性」を見いだす力が問われ始めています。

ぜひ今年は、推論力をマスターする年にしませんか?