ついに動き出した電子マンガ「中古売買」の成算

メディアドゥHDは1700以上の出版社との取引口座を持ち、電子書籍を提供する出版社のほぼ全社と取引実績がある。電子書店側では150店以上と取引実績があり、AmazonのKindleストアなど、ユーザー利用率の高い電子書店の大半と取引している。

電子書籍ならではの問題点

インプレス総合研究所の「電子書籍ビジネス調査報告書2019」の試算によると、電子書籍取次を経由しない出版社直営の電子書店を含めた電子書籍(電子雑誌含まず)の2018年度の市場規模は2826億円。同年度のメディアドゥHDの流通総額は950億円と3割超を占め、業界トップとなる。

ただ、電子書籍の2次流通には懸念もある。紙の書籍の場合、ページが折れ曲がったり汚れがつくなど、中古は新品に比べて物理的に劣化する。しかし、電子書籍は中古でも実質的には新品と変わらないため、価格の安い中古ばかり売れるということにもなりかねない。

また、大手出版社の講談社は、同社の新システムについては詳細を把握していないとしたものの、一般論として「データの所有権の移転を伴う2次流通であれば、著作権者から許諾を受けている現在の(コンテンツ使用権を許諾する)電子書籍のモデルと異なるため、すぐに対応することは難しいのではないか」と慎重な見解を示す。

こうした懸念についてメディアドゥHDでは、中古で売却するユーザーに利益があることはもちろん、売買履歴がわかるブロックチェーンの特性を生かして、2次流通でも出版社や著者などに一定の著作権料が配分される仕組みを構築するなど、ユーザーと権利者の双方にメリットのあるシステムとなるよう検討しているという。

一方、2次流通の形式が電子書籍のデータの所有権の移転となるのか、あるいは従来どおり閲覧権の売買となるのかなど、流通システムの具体的な仕様は「開発中なので現時点では回答できない」(メディアドゥHD)という。ただ、同社発表資料では「所有権ではなく閲覧権を売買できる権利を想定」とあり、従来通りのモデルがベースになるとみられる。

下限価格は出版社が決められる

現在、基盤となるシステムの開発は全体の6割程度の進捗となっており、並行して出版社等のコンテンツホルダーと提携交渉を進めている段階。出版社側では、2次流通は許諾せずに電子書籍の売買履歴のトラッキングのみ行う、特定の電子書籍に限って2次流通を許諾するなど、いくつかの選択肢を含めて検討している状況だ。

ただ複数の業界関係者からは「高額品ではない電子コミックの中古売買は、配分があったとしても出版社にとってメリットが少ないのでは」との声もある。

メディアドゥHDは4月に新流通プラットフォームのより具体的な内容を発表し、9~11月頃をメドに導入開始を予定している。

PC版を試験運用中の「DiSEL」は今春にスマートフォン向けアプリのリリースを計画する

ブロックチェーン技術を使った電子書籍の2次流通は、オンラインゲーム開発会社のアソビモが運営するゲームアイテムや電子書籍の販売サイトDiSEL(ディセル)も開発中だ。

サイト上で購入したポイントを使って電子書籍を入手できるだけでなく、ポイントを対価とした中古販売も可能となっている。なお、ディセルのシステムではコンテンツデータの所有権の売買ではなく、従来の電子書籍と同様に閲覧権の売買をする形となる。

2次流通する際のポイント(価格)はユーザー側が設定するが、出版社側は2次流通の際の下限価格を決めることができ、販売額から一定の割合で配分を得られる。配分は契約形態によってさまざまだが、販売額の5割前後という出版社が多いとみられる。現時点で55社の出版社と契約し、1万点強の電子書籍の取り扱いが決まっている。6割程度を電子コミックが占める。

アソビモの近藤克紀社長は「紙の本は中古で売れるのに、電子書籍はできないことを不便に感じていた。電子書籍の中古売買はユーザーのメリットになり、2次流通の対価を配分すれば出版社側の利益につながる」と強調。現在はPC上で試験的にオープンしている段階だ。「今春以降に予定するアプリ投入に合わせ、本格的にサービスを開始する計画」(近藤社長)。

中古本市場は紙の出版物販売額の5.5%

2018年の紙の出版物販売額は、前年比5.7%減の1兆2921億円(全国出版協会調べ)と減少傾向が止まらない。日販の『出版物販売額の実態2019』によると、中古本市場(フリマアプリなどの消費者間取引は含まず)は713億円となっており、出版物全体の販売額に対して5.5%程度となっている。

違法サイトなどの紆余曲折を乗り越えつつある電子書籍市場。ブロックチェーンによる新しい流通システムは、ユーザーの利便性向上や出版業界の活性化につながるだろうか。