活発な議論の会議がロクな結論にならない理由

考えられる要因としては、ほかの人も知っている情報を提供すると、当然ながらほかの人から「それは正しい」と承認してもらえるからだと思われます。一方で、特定の人しか知らない情報は、周囲を驚かせ、場の空気をかき乱します。人間の同調意識が、「集団の意見に流されることなく、まっとうな反論が埋もれずに出る」ことを妨げているのです。

この問題を解決してくれるのが「沈黙」です。こんな事例があります。

6人で集まり、あるジレンマを解決するためブレーンストーミングが行われています。そしてブレストが終わると、研究者たちが出たアイデアを集計して評価します。次も同じように6人で集まりますが、今度は話し合うのではなく、6人それぞれが自分だけで解決策を考えて紙に書きます。

このような調査を80回以上行ったところ、黙って紙に自分の考えを書いたほうが、お互いに意見を出し合って話し合うより、アイデアの数でも質でもはるかに上回っていたのです。そして、この差は、ミーティングに出席する人数が多いほど開いていきます。

なぜ、黙って紙に書くほうがいいのか

この結果には3つの理由が考えられます。

1つは、いわゆる「発話のブロッキング」が存在しないこと。ミーティングのような場では、基本的に一度に1人しか話せません。そのため、誰かが話しているので黙っているうちに、せっかく浮かんだアイデアを忘れてしまうという事態になりかねません。また、自分が話せる番になっても、今さら言ってもしょうがないような気分になってしまうこともあるかもしれません。

それに加えて、人数が多いほど、発言するチャンスを見つけるのは難しいものです。伝統的なブレーンストーミングでは、ほんの一握りの出席者が発言の60~75%を独占しているといいます。これでは、ほかの出席者が話すチャンスはそうそうありません。

2つめの理由は、「黙って考えを紙に書く」という行為には人前で恥をかく心配がないということです。とくに匿名でもいいのなら、かなり自由に自分の意見を書けます。他人の意見を聞いて自信がなくなったり、空気を読んで意見を変えたりすることもありません。

3つめの理由は、全員が黙って書くという形式は、ある意味で「全員参加のミーティング」だということにあります。目の前に紙と鉛筆があれば、何も書かないわけにはいかず、他人の陰に隠れることもできないでしょう。

実際、「ブレーンライティング」という、ミーティングの出席者がある議題について自分の意見やアイデアを黙って紙に書く方法はかなり有効とされていて、普通のブレーンストーミングを用いたミーティングと比べて、アイデアの総量は20%多く、また独創的なアイデアに限れば42%も多かったといいます。

この「沈黙」という手法は、ミーティングのほかの場面でも活用することができます。それは「黙読」です。意外に思われるかもしれませんが、ただ黙って何かを読むことが、ミーティングの生産性を上げることがあります。

ミーティングでアイデアを提案するときは、まずプレゼンを行い、その後で出席者が話し合うという形も多いかと思います。しかし、アマゾンは――より具体的にはCEOのジェフ・ベゾスは、このやり方に疑問を持ちました。

プレゼンという形式では、どうしてもプレゼンを行う人の「見た目」や「話のうまさ」、「パワーポイント資料のできのよさ」などに目を奪われ、中身そのものを正しく評価できなくなります。

それに加えて、ミーティングにおけるまわりのプレッシャーもあります。空気を読んで、まわりの意見に合わせることは、生産性につながりません。そこでアマゾンが取り入れたのが、「ただ黙って資料を読む」というスタイルです。アマゾンでは、何か提案があったら「黙読用の資料」にまとめるのが当たり前になっていて、ミーティングではまず出席者が黙って資料を読み込みます。資料はどんなに長くても、6ページまでです。