「経済的な死者」の急増を阻止する対策が必要だ

政府は4月に緊急経済対策を決める(写真:ロイター/Issei Kato)

新型コロナウィルス感染症による死者は3月24日現在で世界で約1万7000人だ。世界各国の政府が渡航制限、移動制限、店舗閉鎖、イベント中止など経済活動の大幅な制限に踏み切ったのは、そうしなければ経済の悪化によって失うものよりも、感染拡大によって失うもののほうが大きいと判断したためと考えられる。

通常のインフルエンザでは世界で毎年数十万の人が亡くなるが、それでも経済活動の制限は特別に行わない。それは、インフルエンザによって失うものよりも、経済活動を制限することによって失うもののほうが大きいからである。不況によっても人の死は増える。

したがって、新型コロナウィルス感染症に対する経済対策は、経済活動の収縮による損失を可能なかぎり小さくすることに重点を置くべきだ。新型コロナウィルスの感染拡大による死者を減らすことができたとしても、経済的な死者をそれ以上に増やしてしまえば、新型コロナウィルスとの闘いに負けたことになる。

失業者数と自殺者数には強い相関がある

ここでいう経済的な死者とは、失業などの経済問題を理由とした自殺者のことである。失業者数と自殺者数、とりわけ経済・生活問題を原因とした自殺者数には強い相関関係がある。

日本の自殺者数のピークは2003年の3万4427人(うち、経済・生活問題を原因とした自殺者は8897人)である。失業者数のピークは2002年の359万人であり、ほぼ時期は一致している。その後はやや減少したものの高止まりが続き、リーマンショック後の2009年にいったん増加したが、2010年以降は雇用情勢の改善に伴う失業者の減少とともに10年連続で減少し、2019年には2万0169人(うち、経済・生活問題を原因とした自殺者は3395人)と1978年の統計開始以来では最少になった。

しかし、これから景気は急速に悪化するため、失業者、自殺者が急増するリスクがある。4月に発表される経済対策では、これを防止することを柱とすべきである。

失業者、自殺者を増やさないために必要なことは、いうまでもなく企業の倒産を防ぐことだ。通常の経済対策は、景気悪化によって落ち込んだ需要を喚起することに重点が置かれる。しかし、現在は政府が感染拡大を防ぐために人為的に需要を抑えているという極めて特殊な状況にある。

通常の景気後退期であれば、所得税、消費税の減税や給付金の支給に消費押し上げ効果が期待できる。だが、今回のように消費の場が失われたままでは、こうした政策は意味をなさないだろう。生活必需品に対する支出はある程度増えるかもしれないが、現在需要が急減しているのは外食、旅行、娯楽などの選択的支出であり、問題の解決にはならない。

実は、急速に落ち込んでいる需要を喚起するために特別な経済対策は必要ない。政府が終息宣言をし自粛要請を解除するだけで、経済活動は元の状態に戻る。しかし、現状は感染拡大を防ぐために自粛要請を続けているのだから、その間は需要の拡大をあきらめるしかない。

倒産→失業→自殺の悪循環を断ち切る

足元の景気悪化は、経済的な被害が一部の業界に偏り、かつその被害が極めて大きいことが特徴である。もちろん、経済の停滞が長期化すれば悪影響は全体に及ぶことになるが、現時点では、旅行、宿泊、航空、外食、レジャー関連などの業界が甚大な被害を受けている一方で、悪影響が限定的にとどまっている業界も少なくない。

また、休業や失業で収入が激減した労働者もいれば、公務員やリモートワークが進んでいる会社で働く人のように、収入がそれほど変わらない労働者もいる。したがって、減税や給付金のように広く薄く恩恵が及ぶような政策は適切とはいえず、一点集中型の対策を講じるべきだ。