あのSpotifyが音楽の「英才教育」に乗り出した

子ども向けにキャラクターを選ぶなど、スポティファイとは異なる、かわいいデザインがアプリの特徴の一つ(写真:Spotify)

ついに「サブスクネイティブ世代」が誕生する――。音楽ストリーミングサービス世界最大手のスポティファイ(スウェーデン)は5月12日、日本で子ども向けアプリ「Spotify Kids(スポティファイ キッズ)」の提供を開始した。

スポティファイ キッズは3歳以上の子ども対象としたアプリ。家族最大6人で使える有料プラン(月額1480円)に登録するユーザーなら、追加料金なしで利用できる、サブスクリプション(定額課金)サービスだ。

内容は6歳までの幼児向けと、それ以降の子ども向けに分かれている。子どもが安心して楽しめるコンテンツを厳選していることが特徴だ。たとえば、暴力的や性的、差別的といった、過激な歌詞が含まれた楽曲は除かれている。親が子どもの利用履歴を確認し、特定の楽曲をブロックするといった操作も可能だ。

スポティファイのエディター(プレイリストを作成する音楽の専門家)は楽曲などのコンテンツを選別している。どのようなコンテンツがふさわしいかを有識者団体と協議を重ねるなど、子ども向けということで慎重に選択しているという。

髭男からクラシック、子守歌までズラリ

日本では、Official髭男dism、あいみょん、きゃりーぱみゅぱみゅ、乃木坂46などの人気アーティストの楽曲はもちろん、K‐POP、洋楽、映画やディズニー、スタジオジブリ作品などのサウンドトラックが楽しめる。そのほかに童謡や手遊び歌などもある。

スポティファイらしさが垣間見えるのは、利用シーン別のプレイリストだろう。勉強するときに聴きたいクラシック音楽が選曲された「学ぶ」。オルゴールや子守歌の「おやすみタイム」。ポップ系やアイドル系が中心の「パーティー」といったプレイリストがある。加えて物語の読み聞かせや英語学習などに使える音声コンテンツを多くそろえているのも特徴だ。

実は、同社が「スポティファイ」以外のサービスを投入するのは、初めてのこと。熱心な音楽ファンが多く、アプリは音楽好きのユーザーに刺さるよう、設計されている。小さな子ども向けに音楽コンテンツのニーズがあることは以前から把握していたものの、「十分な体験を提供できていない」という課題を抱えていた。

そこで、数年間のユーザー調査からサービスを開発し、2019年10月にアイルランドで提供を開始した。今後もユーザーの声を基に改善を進める方針のため、まだ「ベータ版」(お試し)の位置づけとしている。

「遊び」「物語」「学ぶ」など、利用シーン別のプレイリストで楽曲をおすすめしてくれる(写真:Spotify)

幼少期からサービスを体験してもらえば、将来の音楽ファン、スポティファイユーザーとなる可能性は高まる。近年、拡充に尽力してきたポッドキャストなどの音声コンテンツにも、早くから親しんでもらうことで、一段と浸透させる狙いがありそうだ。

「最も若いファンを対象とするアプリの開発によって、(中略)若いリスナーは音楽や物語に対する愛情を育み始めることができる」(チーフプレミアムビジネスオフィサーのアレックス・ノーストロム氏)。

有料会員が世界で1憶3000万の顧客基盤

スポティファイは現在、世界で2億8600万超の会員を抱え、有料会員は1億3000万超を誇る。国際レコード産業連盟のレポートによれば、世界の音楽市場は5年連続で成長を続けており、その牽引役がスポティファイを筆頭とするストリーミングサービスだ。CDやレコードの減少をカバーする形で、シェアは全体の56%(2019年)を占めており、音楽市場最大の収益源となっている。

子ども向けアプリの投入は、数年後、長期を見据えた戦略の1つだろう。幼いときから、ストリーミングやサブスクリプションになじんだ”ネイティブ世代”が広がれば、世界の音楽市場は厚みを増すことになる。いまだCD販売が強い日本市場においても、子どもの層を取り込み、若い音楽ファンの開拓に結び付けることができるかが、焦点となりそうだ。

(文=田邉 佳介:東洋経済 記者)