在宅勤務「上司にイラッとした人」の切実な叫び

マネジメントにおいて“部下の仕事ぶりを管理すること”が重要な任務であることは、先述のとおり。しかしそこには、少なからず性悪説的な視点も生まれがちです。

テレワークをうまく生かせるコツは、性悪説ではなく性善説に立脚し、業務プロセスより成果を重視することとされています。リモート環境において、そもそも業務の進捗をこと細かく管理するには限界があります。

プライベートが見えすぎる問題

仕事ぶりが見えづらいことが、テレハラの温床となってしまう一方で、見えすぎることで起きてしまうハラスメントもあります。

テレワークをしていると必然的にコミュニケーションは、SlackといったチャットツールやZoomといったテレビ会議ツールを使うことになります。これらのツール自体はとても便利なのですが、家にいながらカメラを通して話すわけですから、いろんなモノも映り込みます。これまで知りえなかった相手のプライベートが見えてしまうことで、リモート環境では仕事場と自宅との境界が薄れていくことになります。これがセクハラの温床になってしまうのです。

秋本さん(仮名・30代・女性社員)はPCセッティングや部屋の整備など不慣れなオンライン会議への対応で、テレワークを始めた当初は余裕がなかったのが、次第に上司の発言に疑問を感じるようになったとのこと。

「『在宅で少し太った?』とか『今日、すっぴんなの?』とか、いままで言われたことなかったようなことを指摘され……」と、違和感を口にしました。オフィスでの上司には信頼を寄せていただけに、「これって、やっぱセクハラですよね。ちょっと不快です」と残念そうでもありました。

にわかには信じがたいレベルのセクハラ発言というか、今どきのリアルな職場ではほぼ絶滅した発言です。

秋本さんのケースだけでなく、「素敵な部屋だね。全体を見せてよー」とか「必要以上に背景について聞かれる」といった内容もあるようです。パソコンの向こうに私生活が垣間見えるという新鮮さと生々しさを感じる一方、オンラインでは相手の表情がはっきりとはわからないし、周囲に目撃される可能性がない。それだけに、対面では見せられない思い切った言動に出やすい。こうした気軽かつ大胆に発言してしまいやすい環境は、リモートならではです。

子どもが近くにいると嫌な顔をされる

「リビングでビデオ会議をやってたんですけど、子どもが部屋から出てきて映りこんじゃって。上司に嫌みを言われました」「泣き出した子どもの世話をして、仕事やミーティングが中断したとき、すごく嫌な顔される」などなど……。プライベートが見えすぎる問題で、最も悩ましいのが子育てとの両立が見えてしまうことかもしれません。

今は学校もほとんどが休校ですし、とりわけ家族全員がステイホームしているわけですから、子どもが不意にテレビ会議などに登場してしまうのは仕方ないのに、そこをとやかく言われてストレスを抱えて、凹む人もいるようです。

子育て家族への理解がない。そうした部下の在宅勤務環境に配慮できないテレハラ中でも最もベーシックなものとしてあげられるのは、上司が電波環境の悪さにいら立ちをみせることのようです。

「自宅の接続環境、回線速度が悪いことで、嫌みを言われた」「回線が途切れて聞き取れなかったので聞き返したら、すごくイライラされた。その経験から聞き返せなくなった」などなど、部下からすると、どうにもできないことに苛立つケースが多く聞こえてきます。起こっている事象は、電波環境起因のテレハラですが、その根底にあるのは上司の理不尽さ。リアルな職場で起こっていたハラスメントとなんら変わりません。

日頃から理不尽な上司に対して、テレワーク環境で決行した部下たちの「謀反」もあります。そういった意味では、部下からのコミュニケーションに上司が痛む「逆のハラスメント」ともいえます。