「オンライン就活」に企業はついていけるのか

必須課題になったオンライン対応

2021年卒採用を直撃したコロナ禍は、採用スケジュールを大幅に遅延させるとともに、オンライン化対応を必須課題として浮上させた。

AIに対する関心が高まったのは、囲碁や将棋などでAIがプロ棋士に勝つようになってからだが、人事分野でもHRテクノロジーの導入が進んでいる。新卒採用の世界でも管理は当然として、エントリーシートのAI選考は数年前から話題になっていたし、セミナーや面接をWeb上で実施するシステムを提供するITサービスもあった。

ただし、全体からすれば導入企業の割合は、1桁台と言っていいレベルだった。多額のコストをかけて大量採用する大手企業には導入のメリットはあるが、限定された採用コストで少人数を採用する多くの企業は関心を持っていても、導入のメリットがはっきりしなかった。

それも、コロナ禍によって状況は一変した。説明会も面接も対面で実施できなくなった。ただ企業規模によって差があり、大企業で「オンライン面接のみを実施」は65%、中堅では68%だが、中小企業は41%にとどまっている。

マスメディアでも新卒採用が頻繁に取り上げられ、学生側の「オンラインでの話し方がわからない」「オンラインでは自分を伝えられない」「OB・OG訪問ができない」などの声が紹介されることが多いが、一方の人事側も悩んでいる。

「従来、対面での選考・面接しかしていなかったが、新型コロナを機にオンライン選考が加速化することが予想される中、当社の選考活動方針をどうするか」(1001人以上・サービス)の「加速化」の意味は「速まる」ではなく、「オンライン選考にならざるをえない」という趣旨だろう。

しかし、「オンライン化の対応が遅れている」(300人以下・情報・通信)企業がとても多い。当たり前だ。初めての経験なのだ。動画で話すこと自体は、Skype、LINE、FaceTimeなどで簡単にできる。スマホはもともと携帯電話なのでその延長線上にビデオ通話がある。ただ、IT業務以外でパソコンの前で話す経験はほとんどないのが実情だったろう。

オンラインの課題

大学で教えている友人が何人かいるが、4月にはいってからオンライン授業の練習をしていた。Zoomなどのオンライン会議用のシステムを使い、背景の入れ方、たくさんの学生に対する指示の仕方、あれやこれやの問題の発生をシミュレーションしていた。

私も関係会社とお試しでZoomの練習をしてみた。企業の人事もそういうレベルである。オンライン対応はほとんど初体験だ。「オンライン面接を導入するための面接担当者のスキルアップ」 (300人以下・マスコミ・コンサル)と書いてあるが、スキルアップとは面接の仕方以前に、オンライン面接アプリの使い方の練習も指している。

オンラインの課題はリアルとの齟齬(そご)だ。学生も「素の自分」が表現できないというが、人事もまた、学生の反応の悪さ・鈍さに苛立っている。

以下のコメントを読むと人事の悩みがよくわかる。自社の強みを伝えたという確証が乏しく、画面で見る学生の表情から志望度が見えにくく、対面のときと同じように評価できているのかどうかに自信がない。そして、浅い理解のままであれば、入社後のミスマッチが課題になる。

「オンラインでの説明会、座談会、面接などを通して、対面のときに比べ、当社の雰囲気や強みが伝えきれていない印象を受ける」(300人以下・マスコミ・コンサル)

「オンラインで最後まで行く場合、学生の志望度が見えにくい」(301~1000人・メーカー)

「従来の対面面接と同じ判断が出来たかどうかが不安である」(300人以下・メーカー)