瀧本哲史「衰退する日本を見捨てなかった理由」

長引く不況に高まる政治不信。衰退していく日本を、京都大学客員准教授で投資家の瀧本哲史氏はなぜ見捨てなかったのか?(写真:haku/PIXTA)
2019年8月に病のため夭折した京都大学客員准教授の瀧本哲史さん。彼が「衰退する日本」を決して見捨てようとしなかった理由とは? 2012年6月30日、東京大学・伊藤謝恩ホールで、全国から集まった10代~20代の若者に向けて行われた“伝説の東大講義”を完全収録した新書『2020年6月30日にまたここで会おう』より一部抜粋・再構成してお届けする。

はい、瀧本です。

とくに今日は自己紹介する必要もないと思うので、バーッと進めますね。僕は話すのがちょっと速すぎるようで、よく通訳が必要とか言われるんです(笑)、ここに集まったみなさんは頭も良いかと思うので、京大の授業でいつもやっているようにやります。

はい、ついてきてもらえればと。

で、今日のこの会場は、東京大学の伊藤謝恩ホールです。みなさん、「伊藤」って誰のことだか、わかります? イトーヨーカ堂、セブン-イレブン・ジャパン創業者の伊藤雅俊さんなんですね。

伊藤さんが50億円ぐらいをバーンと東大に寄付してくださいまして、今年、本郷キャンパスにこれができました。赤門の向こう側にある福武ホールも、ベネッセの福武さんが同じくらい寄付してくれて、造られたものなんです。

欧米に比べて、日本の大学ってあんまり寄付してもらえないんですけど、最近は日本でもけっこう大きな実業の成功者が出て、その人が大学に寄付するってことが起こるようになってきました。

瀧本哲史が抱く「日本への危機感」

じつは僕は東大で、卒業生のネットワークをつくったり、寄付金を集める仕事を手伝っています。それでこういう大きな成果も出てくるようになってきたわけなんですけど、最近は並行して、本を出したり、多少メディアにも出るようになりました。

僕の仕事はエンジェル投資家であり、基本的に、あんまり表に出ないほうがいい業種なので、これまでは目立たないようにしてたんですね。でも最近、ちょっと考え方を変えまして。

いろいろ理由はあるんですが、一番の理由は、日本への危機感です。この国は、構造的に衰退に向かってるんじゃないかと。みなさんも感じているかと思いますが、中央政府とかエスタブリッシュメントと言われてる人たちが、あんまり機能してないんじゃないか。

だから僕も裏方とかに逃げず、より積極的にひとを支援していかないとマズいなと思ったわけです。

一度、日本を捨てて海外脱出するというオプションを検討したこともあります。みなさんの中にも、「日本って基本的にオワコンだし、東大も世界レベルで見たらダメな大学になりつつある。もう海外に逃げよう」と考えてる人がいるかもしれません。

でも、よく考えてみた結果、僕は「残存者利益があるな」と思ってやめました。日本を見捨てる人が増えても、なんだかんだこの国は今もGDP3位ではありますし、中国に抜かれたって言っても、統計を細かく見るとそれもだいぶ疑わしい。日本にはいろいろまだ、過去の伝統もあるし基盤もありますから、むしろチャンスがあるんじゃないかと思ってます。

じゃあ、日本に残存して、どうやって日本を良くしていくか。僕は、「武器モデル」を広めていくことで、それが可能になるんじゃないかと思ってるんですね。

僕って、知ってる人は知ってると思いますけど、仕事を通じてこれまでいろんな分野で「カリスマ」のでっち上げとか創出を手がけてきました。

固有名詞は挙げませんが、けっこう大成功したんですよ。でも同時に、失望もしました。いくらカリスマが生まれても、世の中あんまり変わらないんですよね。