瀧本哲史「衰退する日本を見捨てなかった理由」

アメリカのオバマ大統領が流行らせた「チェンジ」という言葉があります。彼も登場時は「世界を変えるカリスマだ」と期待されましたが、いま、オバマ政権になって4年が経って、何かアメリカは変わったかというと、ぜんぜん良くなってないですよね。

特定のリーダーをぶち上げて、その人が世の中を変えるという「カリスマモデル」は、どうもうまくいかないんじゃないか、という問題意識が大前提としてあります。

カリスマを頼れない「もう1つの理由」

ちなみに「ワイマール前夜」って言葉をご存じの方、いらっしゃいますでしょうか? もしくは、ワイマール共和政って聞いてわかる人、どれくらいいるかな? この間も一橋でこの話をしたんですけど……。

(会場挙手)

なるほど、さすが東大は一橋より数が多いですね(笑)。

あ、僕の話は、いきなり脱線したりしますけど、ちゃんと全部つながっているので、ご安心ください。情報量は多いと思うのでメモしてる時間はないと思います。レジュメが必要な人は、ネットに上げとくのであとで落としといてください。

で、ワイマール共和政というのは、第一次世界大戦終戦後にドイツでできた政体ですね。皇帝が退位したあとに、基本的人権とか社会権も明記したきわめて理想的な憲法がつくられて、素晴らしい民主的な国家ができたんです。

ところが、理想だけは素晴らしいのに内実はボロボロで、政党はまとまらないし国としてダメダメで。もうほんとにダメだってときに、元軍人の、といっても伍長でしたが、ひとりの売れない画家の人が、「俺がなんとかしてあげよう」と言って、出てきました。

そして国民の多くも、「この人がなんとかしてくれるかもしれない」と思って、その人を祭り上げてしまったわけですね。

その人、最初のうちはホント良くて、経済政策が大当たりして国の景気もむちゃくちゃ良くなり、「やっぱりあの人に任せて良かった」と国民の多くが思ったんですが、その後どんどん変なことをやり始めて、あちこちにいろんな敵をつくって攻撃したり、やたら戦争を起こしたりして、結果的にドイツは大変なことになりました。

はい、ナチスのアドルフ・ヒトラーって方です。けっこう今、日本もそれに近いところがあるんじゃないかと心配をしています。

『2020年6月30日にまたここで会おう 瀧本哲史伝説の東大講義』(星海社)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

ちょっと前も、理想的な政権がつくられたはずだったんですけど、フタを開けてみたらぜんぜんダメで、「政治家はどいつも当てにならない」って空気が蔓延してるところに、「西のほうにすべての問題を解決してくれるいい人がいるかもしれない」みたいな流れが、最近ありますよね。

でも、それってまずいんじゃないかと思うんですよ。そういうことじゃないんじゃないかと。誰かすごい人がすべてを決めてくれればうまくいく、という考えはたぶん?で、「みなが自分で考え自分で決めていく世界」をつくっていくのが、国家の本来の姿なんじゃないかと僕は思ってます。

大事なのは「自分で考えて決める」こと

本にも書きましたが、仏教には「自燈明(じとうみょう)」という言葉があります。開祖のブッダが亡くなるとき、弟子たちに「これから私たちは何を頼って生きていけばいいのでしょうか」と聞かれて、ブッダは「わしが死んだら、自分で考えて自分で決めろ。大事なことはすべて教えた」と答えました。

自ら明かりを燈せ。つまり、他の誰かがつけてくれた明かりに従って進むのではなく、自らが明かりになれ、と突き放したわけです。

これがきわめて大事だと僕は思いますね。