素人も藤井聡太七段の凄さが判る7つの注目点

藤井七段は順位戦がB級2組で、各種棋戦の予選から戦うことが多いが、勝ち進んだ後にはトップクラスと当たっているので、同クラスの棋士よりも相手が厳しい。8割を超える勝率は驚異的だ。

② 最年少記録

藤井七段が有名になったきっかけは、最年少でのプロ入りだったが、プロ棋士は、「何歳でプロ入りするか」と「その後どのクラスまで達するか」との間に非常に強い相関のある世界だ。

「早くプロ入りするほど大成する」と見ることが一般的なので、藤井七段には「史上最強の棋士になるのではないか」、「どこまで強くなるのか楽しみだ」、という夢が投影されることになった。

「最年少記録=スター性の源泉の一つ」

最年少記録は彼のスター性の源の一つであり、プロ将棋界にとっては大きな資産だが、デビューしていきなり最も注目される棋士となって、絶えずカメラの放列に追い回される状況に置かれたことは、いささか気の毒だったようにも思う。

しかし、過剰とも言える注目を持て余すのではなく、正面から受け止めている様子には藤井七段の人間的な魅力を感じる。もっとも、一局一局が強度の注目を浴びるのは、藤井七段にとっては毎度のことだが、相手にとっては対藤井七段戦特有の現象なので、今やメディアの注目は藤井七段に有利に働いているのかも知れない。

③ 記憶に新しい29連勝。しかも、デビューから

プロ将棋界の連勝記録は、長らく、神谷広志八段が1987年に達成した28連勝だった。年度ごとの記録を見ると、最大の連勝記録はたいてい十数連勝だ。20を超える連勝は、この記録を含めて5回しかなかった(24連勝が1回、22連勝が3回)。

28連勝は、ほとんど不滅の記録のように思われていたのだが、藤井七段は何とデビュー戦から29連勝を記録したのだ。デビューしたてで、下のクラスの棋士と当たりやすい位置とはいえ、勝つと次々に相手が強くなる。加えて、プロデビューで将棋を指す状況が変わり、本来なら緊張して力がでなくてもおかしくない環境の下での大記録達成だ。原因を分析するに、環境変化への適応力に加えて、特別な達成意欲と集中力を持っている、ということなのだろう。

将棋ファンならずとも、「この人は特別な運命を持っているのではないか」と思うのではないか。

④ 詰将棋解答選手権5連覇

実は、筆者は、藤井七段について、この選手権の実績をもたらした能力を一番「凄い」と思っている。

藤井七段は、昨年まで詰将棋解答選手権を5連覇している(今年はコロナのために中止)。初回の優勝時は小学生だった。詰将棋と指す将棋の「読む能力」は、全く同じではないが、相関が高い。特に終盤の玉が詰むか詰まないかを読む能力は、詰将棋を解く速さと大いに関係する。

野球なら時速165キロを楽に投げる投手のような存在

難解な詰将棋を誰よりも速く解く能力があるという実績は、メンタルな要素の大きなゲームである将棋では大きな武器だ。正確な比喩ではないが、野球で言うと楽に時速165キロの直球を投げ込むことができるピッチャーのような存在なのだ。

元々局面の先を読む能力が高い天才どうしが、一方が他方に対して勝てないと認識して「負けました」という状況に追い込むゲームがプロの将棋だ。自分が読めいていない局面や詰みを藤井七段はもう読めているかも知れないという精神的な圧迫感は相手にとって小さくない。

また、勝負を決する終盤戦を混沌とした互角の状態で迎えると藤井七段の方が有利なのではないかと思うと、相手にはプレッシャーが掛かる。そして、現実に藤井七段は複雑な終盤戦に強い。一方、藤井七段の側でも、終盤戦の読みに自信があるので、序中盤に十分な考慮時間を投入することができる。そして、序中盤での十分な考慮は以後の対局に向けた蓄積にもなるはずだ。